担当者より:山形浩生さんの書評連載「山形月報!」の2006年12月分です。山形さんといえば、訳書の『要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論』(ポット出版)と、『この世で一番おもしろいミクロ経済学』(ダイヤモンド社)が大変話題になっています。年末年始の読書対象にぜひ。あと、『訳者解説』(バジリコ)についてのインタビュー(聞き手は三浦天紗子さん)も~。では、メリー・クリスマス!

配信日:2006/12/27


呪いがついにとけたか! 久々に外国プロジェクトが決まりそうな年末、いかがおすごしでしょうか。ここしばらく、またもや古い本ばかり読んでいて、あまり新刊書に触れていないのが残念。実はいま読んでいるロレンス・ダレルの大傑作小説『アレキサンドリア四重奏』は年内に改訳版が出るという噂をきいて、訳の善し悪しを見るために原書で読んでおこうとおもったんだけれど、どうも間に合わなかったようだ。

ちなみに、ダレルはもともと翻訳で価値があまり下がらない文を書くし、既訳の高松雄一訳(河出書房新社)は、いまでもまったく問題のないレベル。どこかで見かけたら読んでみることをお薦めする。青臭さと華やかさがアレキサンドリアを舞台に乱舞し、人が都市を造り、その都市が人を形成する驚異の作品だ。機会があれば読んでほしいし、来年になったら出てくれるかな。

さて、都市の保全とか古い建築が好きな人だけにわかるネタだが、明治から残っていた木造三階建ての下宿屋として名高い(そして消防署には忌み嫌われていた)本郷館がついに建て替え決定。今年度いっぱいの命だ。残念ではあるが、正直いってもはやあちこち明らかにガタがきていて保存のしようがないし、やむを得ないかな。

でも、こうした惜しまれつつなくなる建物の一方で、戦後昭和の名建築と呼ばれるものが、次々に寿命を迎えてまったく惜しまれることなく取り壊されている。それらを見物して、建築家のこめた思いとその現状、そしてそれらの持つ形態のおもしろさやユニークさを文章とイラストであますところなく伝える磯達雄&宮沢洋『昭和モダン建築巡礼 西日本編』(日経BP社)はなかなかおもしろい。明治の近代建築保存は、藤森照信らの建築探偵が盛り上げに大きく貢献したけれど、それの昭和建築版にも発展できそうな雰囲気もあるし、意外に身近な建築もあるはずなので、興味ある方は手にとってみては。

あと、ビジネス系では橘玲『マネーロンダリング入門』(幻冬舎新書)が実におもしろい。具体的な手口満載。ライブドアやカシオなど実際の事件を細かく説明し、どこで何が行われたかをわかりやすく教えてくれる。それにしても、A銀行に100万円預けて残高証明をとってから、それをB銀行に移してそっちでも残高証明をとり、両方併せて200万ありますという偽装をやったとか(そしてそれを会計事務所が見過ごしたとか)、信じられない話だらけで、正月の手軽な読み物にも好適だ。プライベートバンキングの幻想をあっさり踏みつぶす部分もたいへんためになります。

それにしても今年は――と一年をふりかえろうとして、えーと、何があったかな。いつもいつも目先の仕事に追われて、気がつけば年末だ。著作権延長の話もあったし、ウィニーの判決もいつの間にか出ていたんだねえ。『マオ』(講談社、上下)を読んで毛沢東関連であれこれ調べていたのもずいぶん昔のように思えるけれど、今年だったのか。あれもやんなきゃ、これもやんなきゃ、そうこうしているうちに、また一年がたって、気がついてみれば今年もほうぼうに不義理ばかり残して終わってしまいましたよ。来年はもっと中期的な見通しのある年にしたいなあ。


●山形浩生(やまがた・ひろお)
大手シンクタンク研究員、評論家、翻訳家。
サイト:YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page