担当者より:山形浩生さんによる書評連載の2006年10月分をアップいたしました。また、山形さんと守岡桜さんが訳したジョージ・A・アカロフ、レイチェル・E・クラントン『アイデンティティ経済学』(東洋経済新報社)が出たばかり。そちらもぜひ。
配信日:2006/10/25
最近は古い長い本ばかり読んでいて、しかもビジネスっぽいのとは無縁のものばかりだから、いまいち紹介する本に苦慮するところ。ナチス親衛隊だったことが判明して大騒ぎになっているギュンター・グラスの『ひらめ』(集英社)とか、脱線のかたまりみたいなロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』(岩波文庫[上下]ほか)とか。ガルシア=マルケスの邦訳が続けて出るので、それは要チェック。
でも最近のガルシア=マルケスはますます真意のつかみにくい小説を書くようになっていて、『わが悲しき娼婦たちの思い出』(新潮社)はジジイが14歳の女の子を薬漬けにして本番ぬきでもてあそぶ非常にいやな話を肯定的に描く変な小説なんだが、それが嫌みか本気か区別がつきかねる。翻訳にずいぶん時間のかかった『コレラの時代の愛』(新潮社)はこれから読むけど、どうなのかな。
評論方面では、安田理央、雨宮まみ『エロの敵』(翔泳社)が非常におもしろい。これは、エロ雑誌やアダルトビデオといったエロ市場がいまジリ貧なのは何のせいなのかを、詳細な歴史とともに分析した結構まじな本だけれど、ぼくみたいな年寄りは、かつての涙ぐましいエロ規制を懐かしく思いおこさせるノスタルジックな本にもなっている。ああ、あったあった、マジックの墨塗りをマーガリンで溶かせるというのにみんな騙されたよねー、とか、一時はヘアがちょっと見えただけで大騒ぎだったのにねー、とか。
そして全巻通じて、エロの敵はエロそのものであり、それがなまじ市民権を得てしまったのがいけないのでは、と述べる。大島渚なら、エロの敵は権力だとか思うだろうけれど、むしろかつてはそれがあったからこそエロの価値が高かったのだ、というのは実にうなずける。が、ではどうすればいいのかね。いろいろ考えさせられるよい本になってます。
新書ブームは、ピークを超えてもまた根強いようで、朝日新聞が朝日新書を出した……んだが、最初のラインナップを見ても買いたい本がない。ワンセットもらったけど、みんなすぐ売ってしまったよ。今後、多少はよくなって、ここで紹介できるような本を出してほしいなあ。
あと、今回は、京極夏彦の新作『邪魅の雫』(講談社)が未読ながらたのしみ。それと、正式な本ではないけれど、スタニスワフ・レムの評論を勝手に訳したファンジンが出ていたのには驚いた。ファンジンという形態自体が懐かしいなあ。「偶然の哲学」「対話」などといった評論を部分的に訳出したもの。書店じゃ手に入らなくて、赤坂にある「ですぺら」という酒場でなぜかあつかっているので、東京近くのレムファンは入手するといいんじゃないかな。
●山形浩生(やまがた・ひろお)
大手シンクタンク研究員、評論家、翻訳家。
サイト:YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page
配信日:2006/10/25
最近は古い長い本ばかり読んでいて、しかもビジネスっぽいのとは無縁のものばかりだから、いまいち紹介する本に苦慮するところ。ナチス親衛隊だったことが判明して大騒ぎになっているギュンター・グラスの『ひらめ』(集英社)とか、脱線のかたまりみたいなロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』(岩波文庫[上下]ほか)とか。ガルシア=マルケスの邦訳が続けて出るので、それは要チェック。
でも最近のガルシア=マルケスはますます真意のつかみにくい小説を書くようになっていて、『わが悲しき娼婦たちの思い出』(新潮社)はジジイが14歳の女の子を薬漬けにして本番ぬきでもてあそぶ非常にいやな話を肯定的に描く変な小説なんだが、それが嫌みか本気か区別がつきかねる。翻訳にずいぶん時間のかかった『コレラの時代の愛』(新潮社)はこれから読むけど、どうなのかな。
評論方面では、安田理央、雨宮まみ『エロの敵』(翔泳社)が非常におもしろい。これは、エロ雑誌やアダルトビデオといったエロ市場がいまジリ貧なのは何のせいなのかを、詳細な歴史とともに分析した結構まじな本だけれど、ぼくみたいな年寄りは、かつての涙ぐましいエロ規制を懐かしく思いおこさせるノスタルジックな本にもなっている。ああ、あったあった、マジックの墨塗りをマーガリンで溶かせるというのにみんな騙されたよねー、とか、一時はヘアがちょっと見えただけで大騒ぎだったのにねー、とか。
そして全巻通じて、エロの敵はエロそのものであり、それがなまじ市民権を得てしまったのがいけないのでは、と述べる。大島渚なら、エロの敵は権力だとか思うだろうけれど、むしろかつてはそれがあったからこそエロの価値が高かったのだ、というのは実にうなずける。が、ではどうすればいいのかね。いろいろ考えさせられるよい本になってます。
新書ブームは、ピークを超えてもまた根強いようで、朝日新聞が朝日新書を出した……んだが、最初のラインナップを見ても買いたい本がない。ワンセットもらったけど、みんなすぐ売ってしまったよ。今後、多少はよくなって、ここで紹介できるような本を出してほしいなあ。
あと、今回は、京極夏彦の新作『邪魅の雫』(講談社)が未読ながらたのしみ。それと、正式な本ではないけれど、スタニスワフ・レムの評論を勝手に訳したファンジンが出ていたのには驚いた。ファンジンという形態自体が懐かしいなあ。「偶然の哲学」「対話」などといった評論を部分的に訳出したもの。書店じゃ手に入らなくて、赤坂にある「ですぺら」という酒場でなぜかあつかっているので、東京近くのレムファンは入手するといいんじゃないかな。
●山形浩生(やまがた・ひろお)
大手シンクタンク研究員、評論家、翻訳家。
サイト:YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page
