担当者より:メルマガ「週刊ビジスタニュース」にかつて掲載した山形浩生さんの書評連載の2006年8月分です。山形さんの最新訳書であるピーター・T・リーソン『海賊の経済学』(NTT出版)も好評発売中!
配信日:2006/08/23
ぼくはMBAじゃないけれど、アメリカ留学中のコースが半分はビジネススクールと共通だったので、MBA予備軍とは嫌というほどつきあわされたのだ。そして、そいつらの多くは本当にいやなやつらだった。口先だけで立ち回ろうとし、漁夫の利を得たがる連中。何でも自分が主導権を握らないと気が済まない権力亡者。実務にたずさわったこともない、頭でっかちの理屈屋。グローバル化だの戦略的マーケティングだの、お題目でしかモノが言えなくなっている唐変木。本当に真摯で優秀なやつはほんの一握り。そしてMBAの講義は、そういういやな連中をのさばらせるようにできている。ある企業がそこそこうまくやっていたら、下手にさわらないほうがいい場合は多い。壊れていないものを直すこたぁないやね。
でもMBAの講義では、何もしないより、まちがっていても何か――それもできるだけ派手な大なた振るい――をやったほうが、革新的だとか積極的だとかいってほめられたりする。何もしないというのは、それがいかに正しくても、チャレンジ精神がないと言われてかえって低い成績がついている。ぼくのいたところは、すでにかなり実務経験のある人がいくところだったので、みんなそのMBA連中を蛇蝎のごとく忌み嫌っていた。あんな連中に、経営なんかできるわけないよ、といって。バカみたいに構造改革だの戦略だので経営者がつとまるかい。それでも、そのMBAどもは卒業して各種企業の経営者候補として高給で雇われてるんだが……実は、ダメな会社ほどMBAが多いんだって。
その点を指摘するところから始めるのが、ヘンリー・ミンツバーグ『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社)だ。おもしろいよ。上にあげたような問題に加え、そもそも経営なんて泥臭いドタ作業の連続なんだから、それを紙の上の分析だけですまそうって根性がまちがってるのだ、という当然の指摘を行うのが、なんと現在の経営学重鎮の一人であるミンツバーグだから説得力はひしひし。もともとミンツバーグは、現場を見ない机上の経営学を大きく批判していた人だけれど、本書はかれがさらに自分の膝元にまで切り込んだおもしろい本だ。MBA取得で留学をめざしてる人、一読して頭を冷やしてね。
さてまったく目先のちがう本。ソーンヒル&パーマー『人はなぜレイプするのか』(青灯社)も収穫だよ。これは強姦というのがちゃんと進化的に意味を持つ生殖行動なんだというのをきちんと論じた堅実な本なんだが、欧米では主に教条フェミニストのお題目のためにすごいバッシングにあった。教条フェミニズムでは、強姦というのはセックスが目的ではなく、権力関係を確立するためのものだ、と主張する。セックスしたいのではなく、女を屈服させて貶めるのが目的だ、と。このイデオロギーでは、強姦がセックス目当てだというのは都合が悪いのだ。
わかりにくい? たとえば、だ。若いセクシー美女と梅干し婆さんとで、強姦の標的になりやすいのはどっちだと思う? もちろん前者だ、というのが常識だと思うけれど、欧米の一部のイデオロギー環境では、この両者に差はない、ということになる。だから、強姦を避けるためには性的に挑発するよな服装や行動を控えろ、といった議論がナンセンス、なんだって。本書は、そんなことなくてちゃんとセックス要因は重要だから、強姦を減らすにはそれを無用に刺激するのは避けよう、という。いや、日本では(一部の教条輸入フェミを除けば)当然の話なんだけど、この本が問題になること自体が驚異ではある。
それにしても暑い日が続くので、ちょっと涼しい地下の写真集なんかいかが。西澤丞『Deep Inside』(求龍堂)と内山英明ほか『トーキョー・アンダー』(グラフィック社)が、示し合わせたように前後して出たけれど、巨大地下建造物や土木インフラの写真集。すぐにでもSF映画のセットになりそうな場所ばかり。すごいよ。
字数がつらくなってきた。白田秀彰『インターネットの法と慣習』(ソフトバンク新書)は、インターネットを核に、単なるネット論にとどまらず法や規制全般にまで議論を拡大したなかなか野心的な一冊。あちこち向いているので、流し読みにも好適だけれど結構深くてためになるのでおすすめ。
あと、中島隆信『これも経済学だ!』(ちくま新書)は、実証的な生産性分析の一方で、大相撲やお寺などこれまでちょっと変わった面から経済学を論じていた中島のつまみぐい的な一冊で、日本版『ヤバい経済学』的な面ももちつつ、安易に善悪を決めたがったり、すぐに「弱者」の看板に頼りたがったりする(立岩真也みたいな)一部の論調をきっちり批判していてとても有益。これまた短いし、夏ばてしつつもさっと読める。あー、今回はまったくまとまらず。ごめんね。ではまた。
●山形浩生(やまがた・ひろお)
大手シンクタンク研究員、評論家、翻訳家。
サイト:YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page
配信日:2006/08/23
ぼくはMBAじゃないけれど、アメリカ留学中のコースが半分はビジネススクールと共通だったので、MBA予備軍とは嫌というほどつきあわされたのだ。そして、そいつらの多くは本当にいやなやつらだった。口先だけで立ち回ろうとし、漁夫の利を得たがる連中。何でも自分が主導権を握らないと気が済まない権力亡者。実務にたずさわったこともない、頭でっかちの理屈屋。グローバル化だの戦略的マーケティングだの、お題目でしかモノが言えなくなっている唐変木。本当に真摯で優秀なやつはほんの一握り。そしてMBAの講義は、そういういやな連中をのさばらせるようにできている。ある企業がそこそこうまくやっていたら、下手にさわらないほうがいい場合は多い。壊れていないものを直すこたぁないやね。
でもMBAの講義では、何もしないより、まちがっていても何か――それもできるだけ派手な大なた振るい――をやったほうが、革新的だとか積極的だとかいってほめられたりする。何もしないというのは、それがいかに正しくても、チャレンジ精神がないと言われてかえって低い成績がついている。ぼくのいたところは、すでにかなり実務経験のある人がいくところだったので、みんなそのMBA連中を蛇蝎のごとく忌み嫌っていた。あんな連中に、経営なんかできるわけないよ、といって。バカみたいに構造改革だの戦略だので経営者がつとまるかい。それでも、そのMBAどもは卒業して各種企業の経営者候補として高給で雇われてるんだが……実は、ダメな会社ほどMBAが多いんだって。
その点を指摘するところから始めるのが、ヘンリー・ミンツバーグ『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社)だ。おもしろいよ。上にあげたような問題に加え、そもそも経営なんて泥臭いドタ作業の連続なんだから、それを紙の上の分析だけですまそうって根性がまちがってるのだ、という当然の指摘を行うのが、なんと現在の経営学重鎮の一人であるミンツバーグだから説得力はひしひし。もともとミンツバーグは、現場を見ない机上の経営学を大きく批判していた人だけれど、本書はかれがさらに自分の膝元にまで切り込んだおもしろい本だ。MBA取得で留学をめざしてる人、一読して頭を冷やしてね。
さてまったく目先のちがう本。ソーンヒル&パーマー『人はなぜレイプするのか』(青灯社)も収穫だよ。これは強姦というのがちゃんと進化的に意味を持つ生殖行動なんだというのをきちんと論じた堅実な本なんだが、欧米では主に教条フェミニストのお題目のためにすごいバッシングにあった。教条フェミニズムでは、強姦というのはセックスが目的ではなく、権力関係を確立するためのものだ、と主張する。セックスしたいのではなく、女を屈服させて貶めるのが目的だ、と。このイデオロギーでは、強姦がセックス目当てだというのは都合が悪いのだ。
わかりにくい? たとえば、だ。若いセクシー美女と梅干し婆さんとで、強姦の標的になりやすいのはどっちだと思う? もちろん前者だ、というのが常識だと思うけれど、欧米の一部のイデオロギー環境では、この両者に差はない、ということになる。だから、強姦を避けるためには性的に挑発するよな服装や行動を控えろ、といった議論がナンセンス、なんだって。本書は、そんなことなくてちゃんとセックス要因は重要だから、強姦を減らすにはそれを無用に刺激するのは避けよう、という。いや、日本では(一部の教条輸入フェミを除けば)当然の話なんだけど、この本が問題になること自体が驚異ではある。
それにしても暑い日が続くので、ちょっと涼しい地下の写真集なんかいかが。西澤丞『Deep Inside』(求龍堂)と内山英明ほか『トーキョー・アンダー』(グラフィック社)が、示し合わせたように前後して出たけれど、巨大地下建造物や土木インフラの写真集。すぐにでもSF映画のセットになりそうな場所ばかり。すごいよ。
字数がつらくなってきた。白田秀彰『インターネットの法と慣習』(ソフトバンク新書)は、インターネットを核に、単なるネット論にとどまらず法や規制全般にまで議論を拡大したなかなか野心的な一冊。あちこち向いているので、流し読みにも好適だけれど結構深くてためになるのでおすすめ。
あと、中島隆信『これも経済学だ!』(ちくま新書)は、実証的な生産性分析の一方で、大相撲やお寺などこれまでちょっと変わった面から経済学を論じていた中島のつまみぐい的な一冊で、日本版『ヤバい経済学』的な面ももちつつ、安易に善悪を決めたがったり、すぐに「弱者」の看板に頼りたがったりする(立岩真也みたいな)一部の論調をきっちり批判していてとても有益。これまた短いし、夏ばてしつつもさっと読める。あー、今回はまったくまとまらず。ごめんね。ではまた。
●山形浩生(やまがた・ひろお)
大手シンクタンク研究員、評論家、翻訳家。
サイト:YAMAGATA Hiroo Official Japanese Page
