担当者より:『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)や『タイアップの歌謡史』(新書y)などで知られる、速水健朗さんが2006年に書かれた団塊世代とテレビの関係についての原稿です。
配信日:2006/07/05
CMとのタイアップでヒット曲が大量に生まれたのは、1970年代末から90年代半ばくらいまでのこと。資生堂の化粧品、コカ・コーラ、マクセルのカセットテープ、航空会社のキャンペーン、カップヌードルなんかのCMソングがチャートの上位を占め、相乗効果で商品も売れていた。だが、90年代後半以降は、TV-CMからヒット曲はめっきり減ってしまう。
かつては南国の映像にリゾートソングという組み合わせが鉄板だった航空会社のCMは、いまや早期予約の割引の数字をアピールする味気のないものだけになった。青い空と海の下でごくごく飲み干す姿が鉄板だったビールのCMも、カロリーがどれくらいといった具体的な数字をアピールするのが主流となった。
2005年、BENNIE Kの「Dreamland」をCMソングに起用したコカ・コーラのCMは、いまどきないタイプのCMだった。青い空と海の下で、軽快な音楽を使う。コカ・コーラが持つアメリカ的なライフスタイルへのあこがれをストレートに表現したCMである。80年代にはこんなCMがたくさんあった。BENNIE Kの曲もそれにふさわしいポップな曲で、50万を超える大ヒットを記録した。
いまどき珍しいCMタイアップのヒット曲である。だが、肝心のコカ・コーラ自体の売り上げは、歌の売れ行き同様には伸びなかった。これではレコード会社を儲けさせるためにコカ・コーラがCMを作ったようなものだ。「CMがヒットしても商品の販売に結びつかない」。広告関係者が最近よく漏らしている悩みだ。
しかし一方では、TV-CMで成長している企業もある。健康食品を扱うやずや、通販のジャパネットたかた(厳密にはCMではなく情報番組)、漢方の再春館製薬所などだ。これらの会社のCMには派手な音楽のタイアップもなければ、韓流スターや巨乳アイドルも出てこない。会社名と製品名を連呼して、自社製品の品質を訴えるという古色蒼然としたもの。
広告業界では音楽とイメージをうまく利用したCMを指す「レナウン以降」という言葉がある。アパレルメーカーのレナウンが1960年代に「ワンサカ娘」のCMシリーズを製作して以降、CM表現は大きく変わる。それ以前は、商品名を連呼するCMソングが主流で、レコード発売されることも、もちろんチャートに登場することなどなかった。だが、レナウンのCMには、「ワンサカ娘」や「イエイエ」(ともに音楽は小林亜星)といった、最新の流行歌としても通用するクオリティの楽曲が使われ、実際にヒット曲にもなっている。CMにおける音楽や映像のクオリティが、商品の売れ行きに大きく関わるようになる。それは、この「レナウン以降」のことなのだ。だが、いまどきはまた「レナウン以前」に回帰している。CM音楽、キャッチコピーひとつでヒットが生まれる時代、そして広告界のスターが世間のスターとなる“おいしい生活”の時代も、今や遠い日の花火である。
さて、すでに名前を挙げた再春館、やずや、ジャパネットたかた、といったいまどきの成功CMの事例は、どれも高齢層をターゲットにしたものである。これらは、団塊世代狙いのマーケティングといえるだろう。深夜のショッピングチャンネルの主な購買層も60歳以上である。通常の放送が終了したあとの深夜帯には、かぐや姫の『神田川』やガロの『学生街の喫茶店』が流れる懐メロCDのCMがひっきりなしに流れている。このあたりの楽曲を青春時代に聴いていたのが、まさに団塊世代である。今日、目につく広告の多くは若者ではなく、年配層をターゲットにしているのだ。当然、CMがそうであればテレビ番組もその世代をターゲットに作られるようになっている。早晩フジテレビの月9枠のドラマも、F1層ではなく、もっと高齢層向けのものに変わっていくだろう。
10代をケータイに持っていかれ、20代~40代はネットに持っていかれ、テレビを一番見ているのは50代以上。ざっくりとではあるがこういう傾向は、統計からも見てとれる。NHK放送文化研究所の年齢ごとの視聴時間統計(2005年)によると20代男性2時間15分、女性2時間55分であるのに比べ、50代=男性3時間52分、女性4時間22分なのだそうだ。薄型液晶テレビが売れに売れている背景には、2006年のドイツでのW杯以上にこの団塊世代の地デジ移行を見据えた買い替え需要があると睨んでいる。
先のコカ・コーラの事例だが、去年の失敗を反省したせいなのか、2006年のCMは40年前の初代「コカ・コーラの唄」に原点回帰してしまった。「コカ・コーラの唄」が始めて登場したのは1962年のこと。外国人専門に販売されていたコカ・コーラが日本人向けに発売されたのは、その前年の1961年。団塊世代にとっては、まさに思春期に入る頃、アメリカからもたらされたものがコカ・コーラだった。コカ・コーラはスターバックスに群がる若者層をあきらめ、もう一度団塊世代にコークを売ろうとしているのだろう。ちなみにスターバックス コーヒーはTV-CMを流していない。
もうTVは若者には訴求しないメディアになった――そう断言するのは、まだ早急かもしれない。だがそうはいっても、みのもんたのレギュラー番組はいまだ増えつづけているし、明日も“和風リラックスマッサージ座椅子(ヒーターつき)”は売れつづけるのだ。
●速水健朗(はやみず・けんろう)
評論家。ブロガーとしても著名。
著書に『タイアップの歌謡史』(新書y)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)がある。
ブログ:犬にかぶらせろ!
配信日:2006/07/05
CMとのタイアップでヒット曲が大量に生まれたのは、1970年代末から90年代半ばくらいまでのこと。資生堂の化粧品、コカ・コーラ、マクセルのカセットテープ、航空会社のキャンペーン、カップヌードルなんかのCMソングがチャートの上位を占め、相乗効果で商品も売れていた。だが、90年代後半以降は、TV-CMからヒット曲はめっきり減ってしまう。
かつては南国の映像にリゾートソングという組み合わせが鉄板だった航空会社のCMは、いまや早期予約の割引の数字をアピールする味気のないものだけになった。青い空と海の下でごくごく飲み干す姿が鉄板だったビールのCMも、カロリーがどれくらいといった具体的な数字をアピールするのが主流となった。
2005年、BENNIE Kの「Dreamland」をCMソングに起用したコカ・コーラのCMは、いまどきないタイプのCMだった。青い空と海の下で、軽快な音楽を使う。コカ・コーラが持つアメリカ的なライフスタイルへのあこがれをストレートに表現したCMである。80年代にはこんなCMがたくさんあった。BENNIE Kの曲もそれにふさわしいポップな曲で、50万を超える大ヒットを記録した。
いまどき珍しいCMタイアップのヒット曲である。だが、肝心のコカ・コーラ自体の売り上げは、歌の売れ行き同様には伸びなかった。これではレコード会社を儲けさせるためにコカ・コーラがCMを作ったようなものだ。「CMがヒットしても商品の販売に結びつかない」。広告関係者が最近よく漏らしている悩みだ。
しかし一方では、TV-CMで成長している企業もある。健康食品を扱うやずや、通販のジャパネットたかた(厳密にはCMではなく情報番組)、漢方の再春館製薬所などだ。これらの会社のCMには派手な音楽のタイアップもなければ、韓流スターや巨乳アイドルも出てこない。会社名と製品名を連呼して、自社製品の品質を訴えるという古色蒼然としたもの。
広告業界では音楽とイメージをうまく利用したCMを指す「レナウン以降」という言葉がある。アパレルメーカーのレナウンが1960年代に「ワンサカ娘」のCMシリーズを製作して以降、CM表現は大きく変わる。それ以前は、商品名を連呼するCMソングが主流で、レコード発売されることも、もちろんチャートに登場することなどなかった。だが、レナウンのCMには、「ワンサカ娘」や「イエイエ」(ともに音楽は小林亜星)といった、最新の流行歌としても通用するクオリティの楽曲が使われ、実際にヒット曲にもなっている。CMにおける音楽や映像のクオリティが、商品の売れ行きに大きく関わるようになる。それは、この「レナウン以降」のことなのだ。だが、いまどきはまた「レナウン以前」に回帰している。CM音楽、キャッチコピーひとつでヒットが生まれる時代、そして広告界のスターが世間のスターとなる“おいしい生活”の時代も、今や遠い日の花火である。
さて、すでに名前を挙げた再春館、やずや、ジャパネットたかた、といったいまどきの成功CMの事例は、どれも高齢層をターゲットにしたものである。これらは、団塊世代狙いのマーケティングといえるだろう。深夜のショッピングチャンネルの主な購買層も60歳以上である。通常の放送が終了したあとの深夜帯には、かぐや姫の『神田川』やガロの『学生街の喫茶店』が流れる懐メロCDのCMがひっきりなしに流れている。このあたりの楽曲を青春時代に聴いていたのが、まさに団塊世代である。今日、目につく広告の多くは若者ではなく、年配層をターゲットにしているのだ。当然、CMがそうであればテレビ番組もその世代をターゲットに作られるようになっている。早晩フジテレビの月9枠のドラマも、F1層ではなく、もっと高齢層向けのものに変わっていくだろう。
10代をケータイに持っていかれ、20代~40代はネットに持っていかれ、テレビを一番見ているのは50代以上。ざっくりとではあるがこういう傾向は、統計からも見てとれる。NHK放送文化研究所の年齢ごとの視聴時間統計(2005年)によると20代男性2時間15分、女性2時間55分であるのに比べ、50代=男性3時間52分、女性4時間22分なのだそうだ。薄型液晶テレビが売れに売れている背景には、2006年のドイツでのW杯以上にこの団塊世代の地デジ移行を見据えた買い替え需要があると睨んでいる。
先のコカ・コーラの事例だが、去年の失敗を反省したせいなのか、2006年のCMは40年前の初代「コカ・コーラの唄」に原点回帰してしまった。「コカ・コーラの唄」が始めて登場したのは1962年のこと。外国人専門に販売されていたコカ・コーラが日本人向けに発売されたのは、その前年の1961年。団塊世代にとっては、まさに思春期に入る頃、アメリカからもたらされたものがコカ・コーラだった。コカ・コーラはスターバックスに群がる若者層をあきらめ、もう一度団塊世代にコークを売ろうとしているのだろう。ちなみにスターバックス コーヒーはTV-CMを流していない。
もうTVは若者には訴求しないメディアになった――そう断言するのは、まだ早急かもしれない。だがそうはいっても、みのもんたのレギュラー番組はいまだ増えつづけているし、明日も“和風リラックスマッサージ座椅子(ヒーターつき)”は売れつづけるのだ。
●速水健朗(はやみず・けんろう)
評論家。ブロガーとしても著名。
著書に『タイアップの歌謡史』(新書y)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)がある。
ブログ:犬にかぶらせろ!
