担当者より:フリーライターの加藤レイズナさんが、人気の「プリキュア」の魅力とそれに伴う困難について書いた原稿です。また、インタビュアーとしても活躍している加藤さんのお仕事は、「空中キャンプ」の伊藤聡さんインタビューや連載「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」などがネットで読めます。
配信日:2009/12/09
「プリキュア」を知っているだろうか。『ふたりはプリキュア』(2004年)から始まり、現在『フレッシュプリキュア!』(2009年)を放送中の大人気作品だ。ふとしたきっかけから伝説の戦士「プリキュア」に変身できる力を手に入れた女子中学生が悪と闘いながら日常を繰り広げていく、今もっとも小さい女の子が憧れを持っている作品だ。
「伝説の戦士」だの「悪と戦う」だの、設定だけを聞くととても女の子に人気があるとは思えない。女の子はもっと、華々しい魔法や変身が好きだと思ってるあなた、それは違うんです。
「プリキュア」には女の子たちが憧れるような魔法が出てくることは少ない。魔法のステッキを片手に綺麗な衣装に着替えたり、町内のちょっとした事件を解決するような少女アニメではない。簡単に言えば、変身できる能力や不思議なアイテムを手に入れた少女たちがいて。それを奪い取ろうとする悪いやつを戦ってこらしめる物語だ。自分の体を張って。
わかりやすく言うと『ドラゴンボール』などの方が近いのである。近いと言うよりむしろ正当な血を受け継いでいると言ってもいいかもしれない。清々しい程の「バトルもの」にはじめて出会ったんだ、俺は。ここまで女の子が痛めつけられるアニメは見たことがなかったので新鮮だった。何度も地面や壁に叩きつけられても最後は必殺技で敵を倒す。男の子向けなら普通の展開だが、女の子向けで「それをやるのか!」と当時はそれに圧倒されたものだ。
何しろ前の年まで「小学生が魔女見習いとして修行をする」や「少女がお母さんを探しに世界を旅する」という番組を放映していたのに、いきなり「全ての世界を飲みこむ」という何を言ってるのかなんのこっちゃわからん大層な野望を持った大ボスがいる組織と戦うアニメになっていたのだ。この「最初にボスが設定されていて、そこにたどり着くまでに敵の幹部たちを倒していく」という設定も少年向けアニメに近いなあと思っていた。
以前、初代の『ふたりはプリキュア』(2004年)から5作目の『Yes!プリキュア5GoGo!』(2008年)までのプロデューサーを務められていた鷲尾天さんにインタビューしたことがある。その際に鷲尾さんはこう言っていた。
〈アニメーションを作る時に一番気をつけるのは「感情のリアリティ」ですね。例えばヒロインがさっきまで泣いてたのに次のシーンでいきなり大笑いしてるとか、気持ちのつながりがおかしいことはやらないということです。よくあることなんですが世界観やストーリーを先に作り上げてしまうとその都合でキャラクターに無理な行動をさせたりしてしまいがちですけど、それはできるだけ避けるようにしていますね。〉
戦闘時は「ブラック」「ホワイト」と呼び合うふたりのプリキュアが、お互いを想い合う大事なシーンでは「なぎさ!」「ほのか!」と叫ぶのにはグっとくるし(『ふたりはプリキュア』42話など)、ささいな喧嘩の後に初めて名前で呼び合ったりする(『ふたりはプリキュア』8話)といった繊細な展開は涙なしでは見れないのだが、これは、感情のリアリティを大事に作品を作っているからなのだと思う。
と、まあ本来のターゲットは小さな女の子なのだが、これが大人まで虜にしてしまうから困ったものだ。作品内の男女に想いを寄せる女性だってたくさんいるし、最初は子供が好きだったから一緒に見てたけど、だんだんと自分の方がハマってきてしまい、子供の方が先に「プリキュア」を「卒業」してしまった主婦だっていたりする。俺の知り合いにも大勢いる。
ここでは、「プリキュア」好きの大人のことを指しているが、こういった「元来大人向けではない子供向け作品を好きになる」人たちというのはオタクの間でもちょっと変わっているようで、そういう大人のファンのことを巷では「大友」と呼ぶ。「大きなお友達」略して大友だ。「小さなお友達向けの作品にハマっている大人を皮肉って名付けたもの」と言えばわかりやすいであろうか。これは主に男性のファンのことを指す場合が多い。もちろん自分もその一人だ。大友でいて困るのは「子どもたちを前提としたイベントに行きづらい」ということだ。
例えば「キャラクターショー」。キャラクターの着ぐるみが同じくかぶりものの敵をバッタバッタとなぎ倒すアレのことだ。誰しも小さな時に一度くらいは行ったことがあるのではないだろうか? 司会のお姉さんが子供たちに「こーんにーちはー!」と大きな声で挨拶し、子どもたちもまた大きな声で「こーーんにーちはーー!!」と返すところは様式美だなあと思いつつも、本当にこの場所に居ていいのかどうか自問自答してしまう。
ショー終了後に行われるキャラクターとの握手や撮影などのために子どもたちと一緒に列に並んでる時のいたたまれなさなどは相当なものだ。周りのお母さんたちの目が痛い……、俺はただ着ぐるみのキュアルージュと握手をして一緒に写真を撮りたいだけなのに……!!
愛知県ではこんなイベントもあった。子供向けミニゲームを全部プレイすると記念商品が貰えるというものだが、特設ブースで行われるゲームなどは係員のお兄さんお姉さんと仲良くなって談笑しながら遊べた。問題はそのミニゲームの内容に「プリキュアの衣装を着て撮影会」というものがあったことだった。
どう見ても子供向けサイズなこの衣装を大人の俺がどうやって着ろというのだろうか。この時だけ体が幼稚園児サイズになってくれればいいのにと本気で思ってしまった。結局は料金さえ払えば衣装は良いですよということになったのだが、あの時ばかりは本気で頭を抱えてしまった。その時にもらったプリキュアのヘアピンは今でも宝物だ。この小さい五色のヘアピンのためにあそこまで頑張ったのを思い返すと我ながら微笑ましくなってくる。
映画館でも大友はたいへんだ。子供向け映画を見に行くと当然のことながら周りは子供だらけ。公開期間も半ばをすぎると、平日午前なんかはお客さんがまったく入ってないこともあったりする。プリキュアの映画を観るために朝イチで劇場に足を運ぶとお客さんは俺ひとり、という状況がなんどもあったものだ。
映画館によっては上映前に係の人が客席までアイスなどを売りにくる洒落たサービスがあったりするのだが。彼らは客が俺一人しかいない時にもたんたんと笑顔でアイスを売りに来る。あの圧迫感は思い返すだけでも心臓に悪い。「寝たフリ」や「携帯いじり」と言ったその場しのぎのテクニックを使うのも悪いので最終的には何度も会釈をくりかえすしかなくなってしまう。一度係員がアイスを売ろうと商品の説明をしていたときに、俺が「ここらへんで止めにしませんか? お互いの幸せのためにも」と言ったら、「これも仕事なので」と彼は笑ってそのまま話を続けた。気合いの入ったプロ根性はさすがだった。
映画と言えば、歴代全員集合第二弾の『映画プリキュアオールスターズDX2希望の光レインボージュエルを守れ!』が2010年に公開だ。
俺は第一弾『映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』を40回観ているが、そのうち2回アイスを売りに来られた。今回は何回アイス売りの係員との心理戦を繰り広げることになるのだろうか。この時だけ心が幼稚園児になってくれれば楽になれるのに。
●加藤レイズナ(かとう・れいずな)
フリーライター。
『クイック・ジャパン』や『ゲームラボ』、「webマガジン幻冬舎」などの媒体で活躍中。
ブログ:レイズナブログ
配信日:2009/12/09
「プリキュア」を知っているだろうか。『ふたりはプリキュア』(2004年)から始まり、現在『フレッシュプリキュア!』(2009年)を放送中の大人気作品だ。ふとしたきっかけから伝説の戦士「プリキュア」に変身できる力を手に入れた女子中学生が悪と闘いながら日常を繰り広げていく、今もっとも小さい女の子が憧れを持っている作品だ。
「伝説の戦士」だの「悪と戦う」だの、設定だけを聞くととても女の子に人気があるとは思えない。女の子はもっと、華々しい魔法や変身が好きだと思ってるあなた、それは違うんです。
「プリキュア」には女の子たちが憧れるような魔法が出てくることは少ない。魔法のステッキを片手に綺麗な衣装に着替えたり、町内のちょっとした事件を解決するような少女アニメではない。簡単に言えば、変身できる能力や不思議なアイテムを手に入れた少女たちがいて。それを奪い取ろうとする悪いやつを戦ってこらしめる物語だ。自分の体を張って。
わかりやすく言うと『ドラゴンボール』などの方が近いのである。近いと言うよりむしろ正当な血を受け継いでいると言ってもいいかもしれない。清々しい程の「バトルもの」にはじめて出会ったんだ、俺は。ここまで女の子が痛めつけられるアニメは見たことがなかったので新鮮だった。何度も地面や壁に叩きつけられても最後は必殺技で敵を倒す。男の子向けなら普通の展開だが、女の子向けで「それをやるのか!」と当時はそれに圧倒されたものだ。
何しろ前の年まで「小学生が魔女見習いとして修行をする」や「少女がお母さんを探しに世界を旅する」という番組を放映していたのに、いきなり「全ての世界を飲みこむ」という何を言ってるのかなんのこっちゃわからん大層な野望を持った大ボスがいる組織と戦うアニメになっていたのだ。この「最初にボスが設定されていて、そこにたどり着くまでに敵の幹部たちを倒していく」という設定も少年向けアニメに近いなあと思っていた。
以前、初代の『ふたりはプリキュア』(2004年)から5作目の『Yes!プリキュア5GoGo!』(2008年)までのプロデューサーを務められていた鷲尾天さんにインタビューしたことがある。その際に鷲尾さんはこう言っていた。
〈アニメーションを作る時に一番気をつけるのは「感情のリアリティ」ですね。例えばヒロインがさっきまで泣いてたのに次のシーンでいきなり大笑いしてるとか、気持ちのつながりがおかしいことはやらないということです。よくあることなんですが世界観やストーリーを先に作り上げてしまうとその都合でキャラクターに無理な行動をさせたりしてしまいがちですけど、それはできるだけ避けるようにしていますね。〉
戦闘時は「ブラック」「ホワイト」と呼び合うふたりのプリキュアが、お互いを想い合う大事なシーンでは「なぎさ!」「ほのか!」と叫ぶのにはグっとくるし(『ふたりはプリキュア』42話など)、ささいな喧嘩の後に初めて名前で呼び合ったりする(『ふたりはプリキュア』8話)といった繊細な展開は涙なしでは見れないのだが、これは、感情のリアリティを大事に作品を作っているからなのだと思う。
と、まあ本来のターゲットは小さな女の子なのだが、これが大人まで虜にしてしまうから困ったものだ。作品内の男女に想いを寄せる女性だってたくさんいるし、最初は子供が好きだったから一緒に見てたけど、だんだんと自分の方がハマってきてしまい、子供の方が先に「プリキュア」を「卒業」してしまった主婦だっていたりする。俺の知り合いにも大勢いる。
ここでは、「プリキュア」好きの大人のことを指しているが、こういった「元来大人向けではない子供向け作品を好きになる」人たちというのはオタクの間でもちょっと変わっているようで、そういう大人のファンのことを巷では「大友」と呼ぶ。「大きなお友達」略して大友だ。「小さなお友達向けの作品にハマっている大人を皮肉って名付けたもの」と言えばわかりやすいであろうか。これは主に男性のファンのことを指す場合が多い。もちろん自分もその一人だ。大友でいて困るのは「子どもたちを前提としたイベントに行きづらい」ということだ。
例えば「キャラクターショー」。キャラクターの着ぐるみが同じくかぶりものの敵をバッタバッタとなぎ倒すアレのことだ。誰しも小さな時に一度くらいは行ったことがあるのではないだろうか? 司会のお姉さんが子供たちに「こーんにーちはー!」と大きな声で挨拶し、子どもたちもまた大きな声で「こーーんにーちはーー!!」と返すところは様式美だなあと思いつつも、本当にこの場所に居ていいのかどうか自問自答してしまう。
ショー終了後に行われるキャラクターとの握手や撮影などのために子どもたちと一緒に列に並んでる時のいたたまれなさなどは相当なものだ。周りのお母さんたちの目が痛い……、俺はただ着ぐるみのキュアルージュと握手をして一緒に写真を撮りたいだけなのに……!!
愛知県ではこんなイベントもあった。子供向けミニゲームを全部プレイすると記念商品が貰えるというものだが、特設ブースで行われるゲームなどは係員のお兄さんお姉さんと仲良くなって談笑しながら遊べた。問題はそのミニゲームの内容に「プリキュアの衣装を着て撮影会」というものがあったことだった。
どう見ても子供向けサイズなこの衣装を大人の俺がどうやって着ろというのだろうか。この時だけ体が幼稚園児サイズになってくれればいいのにと本気で思ってしまった。結局は料金さえ払えば衣装は良いですよということになったのだが、あの時ばかりは本気で頭を抱えてしまった。その時にもらったプリキュアのヘアピンは今でも宝物だ。この小さい五色のヘアピンのためにあそこまで頑張ったのを思い返すと我ながら微笑ましくなってくる。
映画館でも大友はたいへんだ。子供向け映画を見に行くと当然のことながら周りは子供だらけ。公開期間も半ばをすぎると、平日午前なんかはお客さんがまったく入ってないこともあったりする。プリキュアの映画を観るために朝イチで劇場に足を運ぶとお客さんは俺ひとり、という状況がなんどもあったものだ。
映画館によっては上映前に係の人が客席までアイスなどを売りにくる洒落たサービスがあったりするのだが。彼らは客が俺一人しかいない時にもたんたんと笑顔でアイスを売りに来る。あの圧迫感は思い返すだけでも心臓に悪い。「寝たフリ」や「携帯いじり」と言ったその場しのぎのテクニックを使うのも悪いので最終的には何度も会釈をくりかえすしかなくなってしまう。一度係員がアイスを売ろうと商品の説明をしていたときに、俺が「ここらへんで止めにしませんか? お互いの幸せのためにも」と言ったら、「これも仕事なので」と彼は笑ってそのまま話を続けた。気合いの入ったプロ根性はさすがだった。
映画と言えば、歴代全員集合第二弾の『映画プリキュアオールスターズDX2希望の光レインボージュエルを守れ!』が2010年に公開だ。
俺は第一弾『映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』を40回観ているが、そのうち2回アイスを売りに来られた。今回は何回アイス売りの係員との心理戦を繰り広げることになるのだろうか。この時だけ心が幼稚園児になってくれれば楽になれるのに。
●加藤レイズナ(かとう・れいずな)
フリーライター。
『クイック・ジャパン』や『ゲームラボ』、「webマガジン幻冬舎」などの媒体で活躍中。
ブログ:レイズナブログ
