担当者より:インテリアデザイナー・建築家の浅子佳英さんに、ファッションを通して見えてくるシステムについて書いていただいた原稿です。ご一読ください。
配信日:2010/05/19
ここ十数年間、作品やコンテンツの分野では新しい表現が生まれにくくなったと言われている。しかし他方で、その下の流通、ネットワークなどのシステムにおいては次々に新しいサービスが生まれ、激動の時代でもあった。そして、ファッション業界は、まさにこれら両面から挟まれるような形で急速に変貌してきた。
実際にこの間、自ら企画、生産、販売まで一貫して行うGAPやユニクロのようなSPA業態(製造から小売までをまとめた垂直統合度が高い販売業態)は急速に台頭してきたし、反対に、パリコレという舞台で活躍している(特に新しい)デザイナーは、次々に窮地に追い込まれていった。
当然この間にも、力のあるデザイナーが何人もデビューを果たし、活躍してはいる。ところがそれは、「グッチを再生したトム・フォード」、もしくは「ディオールオムのエディ・スリマン」、または「バレンシアガのニコラ・ゲスキエール」など、その活躍のほとんどが老舗メゾンのデザイナーとして、である。片や、個人のブランドを見てみると、ヘルムートラングは業界自体を去り、ジルサンダーは引退(最近ユニクロと復活!)、昨年も(株)ヨウジヤマモトが、60億の負債を抱え、民事再生法の適用を申請した。
このような現況は、通常、グローバリゼーションがもたらしたひとつの帰結であり、必然なのだと言われている。 しかし、当然ながら世の中のすべての服がGAPやユニクロになった訳ではなく、この間の変化には他の理由や経緯があったと言えるだろう。
そして日本のウェブサービスに、これらの変化を非常に分かりやすい形でみせてくれるものがある。1999年にサービスを初め、今や総出品数は2000万件を超える日本最大のオークションサイト「ヤフーオークション」だ。
「人気のある商品はより高く売れる」、という非常に単純なシステムであるため、消費者の動向を見るのに、これほど適した人工環境はない。「どのような商品が人気があるのか?」また、「どのようなブランドが流行っているのか?」といった事が、ここを見ているだけで分かるのだ。
もちろん、すべてがオークションで売られる訳ではない、売られやすい商品と売られにくい商品があるとの反論もあるだろう。しかし、より人気のあるものは高く売れるという性質上、好み、ジャンル、カテゴリに関係なく、高い値段で売れさえすれば、必ずバイヤー(売る人間)が現れると考える方が自然だ。 したがって、ヤフーオークションという人工環境は非常にシビアな判定装置としての役割があるのだといってよい。
そして、この人工環境がもたらした最も重要な変化は、漠然としていた価値そのものが、具体的な「価格」と言う形で可視化されることになった点にある。要は、オークションが生まれた事で、発売した商品がその日のうちに、いくらで売れるかが分かってしまう事になり、今まで漠然としていた市場価値が具体的な数字として、誰にでも分かる形になったのだ。こうなるとブランド側が自身で価値を決める事自体が無意味になってくる。
さらにこの変化は次に、「買った服を売って次の服を買う」という消費者の行為をも生み出し、それはそのまま「売れる商品を買う」形として、最終的には消費者の内面さえも変化させるに至る。
ただ、売れるかどうかを事前に予測する事は非常に難しい。特に全く新しいデザインというのは、単独で価格を決める事ができず、既に価値が安定したものを基準にするしかなくなってしまうのだ。とはいえ価値が安定した物も、同じ物が大量に流通してしまうと、それはそれで市場の価値は下がってしまう。だから、「価値の安定化」と「希少性の確保」という、二つの操作をいかにしておこなうのかがファッションにおいてはもっとも重要になってくるのだ。
この事を証明するかのように、ヤフーオークションが始まったのとちょうど同じような時期に「限定品」や「コラボ」の流行が生まれている。もともと協同で仕事をするという意味を持つコラボレーションを略して「コラボ」なのだが、実際には、既存の商品の色や素材を変えたり、ロゴをくっつけたりしただけの物が多かった。それでもこの手法は流行したのだが、それは上述した「二つの操作をいかにしておこなうのか」という点から見れば非常に有効であったからだ。
どういう事か。まず第一に、この方法は新しくコラボレーションする商品に、既存の安定した価値を利用しつつも希少性を加味する事ができる。さらに既存のブランドからみても、古く魅力が薄くなった(市場価値が下がりつつある)商品に再び魅力を取り戻すためのカンフル剤としての効果を期待する事ができる。その上、消費者の側に立ってみても、もはや洋服に絶対的な価値など存在しないのだから、単に素材や色が変わっただけで価格が倍になっとしても、それ自体は本質的な問題ではなく、限定品による市場価値が安定した(もしくは高騰する可能性がある)商品のほうが魅力的であり、この方法は、新しくコラボレーションする商品、既存のブランド、消費者、誰にとっても有効であったのだ。
ただし、この方法はもともと数回限り有効なカンフル剤のはずで、同じ手法を使い続けた結果――それこそ、オークションの存在によって、限定品が大量に流通する世界が見えてしまえば――当然の結果として大量にある限定品はもはや限定品とはいえず、自己崩壊していく。
また、希少性について言えば、そもそもファッションにおいては情報の偏りそのものが、希少性を産みだしていた。パリで一年前にコレクションを行い、一部のバイヤーがそれを注文し、さらに国内のしかるべき店舗のみで販売するという従来の方法には、情報の著しい方向性と偏重がある。流行の商品を探す前に、それがなんであるのか?ということ自体が簡単には分からなかったのだ。
しかし、これもネットの出現によって急速に変わっていく。世界中の何処にいても、コレクションの画像は手に入るようになり、検索さえすれば、その商品にまで一瞬でたどり着けるようになったのだ。限定品の流行は、希少性を保つことが困難になって来たからこそ、半ば暴力的に「物理的に数を制限する」という形で生まれたのである。
違う見方をすれば、ここで起こっているのは、進化論のアナロジーで捉えると、ファッションにおける進化の過程だとみなすことができる。リチャード・ドーキンスのいうミームのように、各商品や、ブランドは自然淘汰と突然変異を繰り返しながら、生き延びようとしているのだ。ひとつの商品やブランドがそのままの形で永遠に行き続ける事はない。どのようなものにも寿命があり、時とともに滅んでいく。しかし、新しく複製されたものが現れる事によって、その遺伝子は
生きながらえる。
このように、微細な違いを維持しながら自らを複製し、できる限り広い世界に流通させ、可能な限り長い時間生存させ続ける事こそがファッションにおいて最も重要な部分であり、SPA業態の台頭はこのことのビジネスにおいての帰結でしかない。
いわばファッションというのは、価値や消費者の内面を巡って、自然淘汰と突然変異を繰り返しながら、生存競争を行っている、自己淘汰システムなのだ。
●浅子佳英(あさこ・よしひで)
インテリアデザイナー・建築家。タカバンスタジオ所属。合同会社コンテクチュアズ執行社員。
主なプロジェクトに「MILKFED」「x-girl」「X-LAEGE」「deep sweet easy」「住宅/アトリエ」「カオス*ラウンジ+破滅*ラウンジ会場設計」など。
主な論文に「オペレーティングシステム的リアリズム」(『Final Critical Ride』)。
配信日:2010/05/19
ここ十数年間、作品やコンテンツの分野では新しい表現が生まれにくくなったと言われている。しかし他方で、その下の流通、ネットワークなどのシステムにおいては次々に新しいサービスが生まれ、激動の時代でもあった。そして、ファッション業界は、まさにこれら両面から挟まれるような形で急速に変貌してきた。
実際にこの間、自ら企画、生産、販売まで一貫して行うGAPやユニクロのようなSPA業態(製造から小売までをまとめた垂直統合度が高い販売業態)は急速に台頭してきたし、反対に、パリコレという舞台で活躍している(特に新しい)デザイナーは、次々に窮地に追い込まれていった。
当然この間にも、力のあるデザイナーが何人もデビューを果たし、活躍してはいる。ところがそれは、「グッチを再生したトム・フォード」、もしくは「ディオールオムのエディ・スリマン」、または「バレンシアガのニコラ・ゲスキエール」など、その活躍のほとんどが老舗メゾンのデザイナーとして、である。片や、個人のブランドを見てみると、ヘルムートラングは業界自体を去り、ジルサンダーは引退(最近ユニクロと復活!)、昨年も(株)ヨウジヤマモトが、60億の負債を抱え、民事再生法の適用を申請した。
このような現況は、通常、グローバリゼーションがもたらしたひとつの帰結であり、必然なのだと言われている。 しかし、当然ながら世の中のすべての服がGAPやユニクロになった訳ではなく、この間の変化には他の理由や経緯があったと言えるだろう。
そして日本のウェブサービスに、これらの変化を非常に分かりやすい形でみせてくれるものがある。1999年にサービスを初め、今や総出品数は2000万件を超える日本最大のオークションサイト「ヤフーオークション」だ。
「人気のある商品はより高く売れる」、という非常に単純なシステムであるため、消費者の動向を見るのに、これほど適した人工環境はない。「どのような商品が人気があるのか?」また、「どのようなブランドが流行っているのか?」といった事が、ここを見ているだけで分かるのだ。
もちろん、すべてがオークションで売られる訳ではない、売られやすい商品と売られにくい商品があるとの反論もあるだろう。しかし、より人気のあるものは高く売れるという性質上、好み、ジャンル、カテゴリに関係なく、高い値段で売れさえすれば、必ずバイヤー(売る人間)が現れると考える方が自然だ。 したがって、ヤフーオークションという人工環境は非常にシビアな判定装置としての役割があるのだといってよい。
そして、この人工環境がもたらした最も重要な変化は、漠然としていた価値そのものが、具体的な「価格」と言う形で可視化されることになった点にある。要は、オークションが生まれた事で、発売した商品がその日のうちに、いくらで売れるかが分かってしまう事になり、今まで漠然としていた市場価値が具体的な数字として、誰にでも分かる形になったのだ。こうなるとブランド側が自身で価値を決める事自体が無意味になってくる。
さらにこの変化は次に、「買った服を売って次の服を買う」という消費者の行為をも生み出し、それはそのまま「売れる商品を買う」形として、最終的には消費者の内面さえも変化させるに至る。
ただ、売れるかどうかを事前に予測する事は非常に難しい。特に全く新しいデザインというのは、単独で価格を決める事ができず、既に価値が安定したものを基準にするしかなくなってしまうのだ。とはいえ価値が安定した物も、同じ物が大量に流通してしまうと、それはそれで市場の価値は下がってしまう。だから、「価値の安定化」と「希少性の確保」という、二つの操作をいかにしておこなうのかがファッションにおいてはもっとも重要になってくるのだ。
この事を証明するかのように、ヤフーオークションが始まったのとちょうど同じような時期に「限定品」や「コラボ」の流行が生まれている。もともと協同で仕事をするという意味を持つコラボレーションを略して「コラボ」なのだが、実際には、既存の商品の色や素材を変えたり、ロゴをくっつけたりしただけの物が多かった。それでもこの手法は流行したのだが、それは上述した「二つの操作をいかにしておこなうのか」という点から見れば非常に有効であったからだ。
どういう事か。まず第一に、この方法は新しくコラボレーションする商品に、既存の安定した価値を利用しつつも希少性を加味する事ができる。さらに既存のブランドからみても、古く魅力が薄くなった(市場価値が下がりつつある)商品に再び魅力を取り戻すためのカンフル剤としての効果を期待する事ができる。その上、消費者の側に立ってみても、もはや洋服に絶対的な価値など存在しないのだから、単に素材や色が変わっただけで価格が倍になっとしても、それ自体は本質的な問題ではなく、限定品による市場価値が安定した(もしくは高騰する可能性がある)商品のほうが魅力的であり、この方法は、新しくコラボレーションする商品、既存のブランド、消費者、誰にとっても有効であったのだ。
ただし、この方法はもともと数回限り有効なカンフル剤のはずで、同じ手法を使い続けた結果――それこそ、オークションの存在によって、限定品が大量に流通する世界が見えてしまえば――当然の結果として大量にある限定品はもはや限定品とはいえず、自己崩壊していく。
また、希少性について言えば、そもそもファッションにおいては情報の偏りそのものが、希少性を産みだしていた。パリで一年前にコレクションを行い、一部のバイヤーがそれを注文し、さらに国内のしかるべき店舗のみで販売するという従来の方法には、情報の著しい方向性と偏重がある。流行の商品を探す前に、それがなんであるのか?ということ自体が簡単には分からなかったのだ。
しかし、これもネットの出現によって急速に変わっていく。世界中の何処にいても、コレクションの画像は手に入るようになり、検索さえすれば、その商品にまで一瞬でたどり着けるようになったのだ。限定品の流行は、希少性を保つことが困難になって来たからこそ、半ば暴力的に「物理的に数を制限する」という形で生まれたのである。
違う見方をすれば、ここで起こっているのは、進化論のアナロジーで捉えると、ファッションにおける進化の過程だとみなすことができる。リチャード・ドーキンスのいうミームのように、各商品や、ブランドは自然淘汰と突然変異を繰り返しながら、生き延びようとしているのだ。ひとつの商品やブランドがそのままの形で永遠に行き続ける事はない。どのようなものにも寿命があり、時とともに滅んでいく。しかし、新しく複製されたものが現れる事によって、その遺伝子は
生きながらえる。
このように、微細な違いを維持しながら自らを複製し、できる限り広い世界に流通させ、可能な限り長い時間生存させ続ける事こそがファッションにおいて最も重要な部分であり、SPA業態の台頭はこのことのビジネスにおいての帰結でしかない。
いわばファッションというのは、価値や消費者の内面を巡って、自然淘汰と突然変異を繰り返しながら、生存競争を行っている、自己淘汰システムなのだ。
●浅子佳英(あさこ・よしひで)
インテリアデザイナー・建築家。タカバンスタジオ所属。合同会社コンテクチュアズ執行社員。
主なプロジェクトに「MILKFED」「x-girl」「X-LAEGE」「deep sweet easy」「住宅/アトリエ」「カオス*ラウンジ+破滅*ラウンジ会場設計」など。
主な論文に「オペレーティングシステム的リアリズム」(『Final Critical Ride』)。
