担当者より:プロジェクト「.review」の中核メンバーとして活躍中の塚越健司さんに現代のリークについてご執筆いただきました。プロジェクト「.review」については、西田亮介さんのインタビューもぜひご覧ください。
配信日:2010/05/06
リーク、あるいは内部告発。この言葉は両義的だ。危険、汚いといったネガティブなイメージと同時に、勇敢な行為、社会正義といったイメージも浮かんでくる。
そもそも、リークに対してはどのような対応がなされているのだろうか。日本では近年、企業による相次ぐ不祥事を受けて、2006年に「公益通報者保護法」が施行された。この法律は、文字通り行政機関がリークした者を保護するためのものである。また内閣府のデータによれば、公益通報という形で行政機関に受理されたリークは2008年で5000件を越えている。そしてこのうちの4000件以上が、なんらかの行政措置を受けている。5000件が多いか少ないかの判断はここでは控えるが、日本におけるリークの量が、今後増加することは間違いないだろう。
リークに関しては、さらに興味深いものがある。近年のインターネット技術を応用した「Wikileaks」(ウィキリークス)というサイトが、画期的な方法でリーク情報を世界に伝えているのだ。Wikileaksでは、わざわざ行政機関に自らアクセスすることなく、ネット上のサイトに書き込むだけでリーク情報を世界に発信させることができる。そう、リークは形を変えつつあるのだ。
だが、まずは従来型のリークについて、ひとつの事例をみてみよう。2007年に生じた、北海道の食品加工卸会社「ミートホープ」による食肉表示偽装事件を覚えているだろうか?食肉にパンを混ぜてまで量を改ざんし、また社長のキャラクターやその対応の不備から、マスコミに大きくとりあげられたこの事件。事件が明るみになったきっかけは、リークによるものだった。
当時ミートホープ社の常務であった赤羽喜六氏は、偽装された食肉を農林水産省に持ち込むも、受け取りを拒否されている。その後ミートホープ社を退社した後も、赤羽はマスコミに情報を持ちこむが掲載を拒否され続ける。そして紆余曲折の末、朝日新聞の記者が拾い上げる形で、事件が明らかになった経緯がある。
事件は大きく報道され、リークそのものは大成功だったと言えるだろう。しかし、この事件では赤羽氏が実名でリークを公表したということもあり、赤羽氏自身は大変な精神的苦痛を被った。まず、自分のリークが元で結果的に会社は倒産。従業員の多くに赤羽氏は恨みを買った。当然、元取引先の人間からも「裏切り者、自分も不正に加担していたくせに」とのクレームが寄せられる。裏切り者というイメージは、近隣住民の白い目や、家族・親族からの苦情に拍車をかける。結局赤羽氏は、2010年2月現在に至るまでうつ病を患うこととなった。
赤羽氏が最初に保健所にリークしたのは2006年。「公益通報者保護法」が施行されてすぐのことである。現在のようにリークがある程度社会的認知を獲得しており、行政側の窓口の設置等がなされているならいざしらず、この段階の行政はリークに見向きもしなかったのである。このケースは数多く存在するリークのほんの一例ではあるが、リークにかかる個人のコストを考慮した時、行政やマスコミにリークするという行為に付きまとう困難は理解できる。
では、全世界からリーク情報を集約・発信する告発サイトたる「Wikileaks」とはいかなるものか。Wikileaksは2006年に、オーストラリアのジャーナリストであるジュリアン・アサンジ氏が中心となって立ち上げた英語のサイトであり、2007年から公式にリーク情報の募集を開始した。その規模は年々拡大傾向にあり、2010年4月現在で、リーク情報そのものは120万を超えている。リーク投稿者のプライバシーに関してWikileaksは、投稿者の情報に関してログを取らないといった、強固なセキュリティを持ったスウェーデン企業PRQ(PeRiQuito AB)のホスティングサービスを使用している。
実際にWikileaksが世界に発信した有名なリーク情報としては、スイスのジュリアス・ベアー銀行のマネーロンダリング情報や、宗教団体であるサイエントロジーの内部資料情報がある。最近では、イラクにおける米軍の民間人へのヘリ攻撃の映像の公開が新しい。このようにWikileaksでは、経済や宗教、政治等、主に社会問題に切り込んでいる。また大きく報じられることはなかったが、日本の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏出事故の映像が発信されたこともある。
では、Wikileaksの何が新しいのだろうか。まず、従来型のリークでは、どうしても行政やマスコミに対して、自らの身元を明かさなければならない。「公益通報者保護法」においても、リークした者の保護を図るとは記載されてあるものの、やはりプライバシー流出に対する不安は拭えない。また、場合によってはリーク者が行政機関に出向いて語らなければならないことも多々あり、リークが敷居の高いものとなってしまっている現状が伺える。
これに対してWikileaksは、HPの投稿欄に内容を記述するだけである。あとは1200人の登録されたボランティアスタッフがその内容を審査し、適正と判断されたものが公表される(なお2010年1月に行ったジュリアン・アサンジ氏へのインタビューで彼は、Wikileaksの運営メンバーは、中核になる5人と800人の協力者と答えている)。情報が公開されれば、Twitter(特にRT機能)によって情報が一気に世界をかけめぐることになり、マスコミも大きく取り上げることになるだろう。実際、最近のWikileaksでは、情報をTwitterでも発信している。
いずれにせよ、リーク者の負担は、Wikileaksの投稿フォームに従ってリーク内容を書くだけである。だがもちろん問題もある。そもそもリーク情報がデマである可能性もあるだろうし、スタッフの審査能力にも限界はある。この点は課題として残るだろう。
このように、Wikileaksに問題がないわけではない。リーク内容の審査過程に透明性が担保されていないとする批判も存在すれば、そもそも日本で多くなされている中小企業のリーク情報の審査など誰ができるのか、といった疑問も残る。従って著者は、Wikileaksが日本でも力を持ち得るかについては疑問もある。
しかし、Wikileaksが画期的なのは、むしろ新しい技術に裏打ちされたリーク形態が出現したという、この事実なのである。すでに存在しているネット技術を使用すれば、告発サイトがWikileaksに限定される必要はないのだ。
そのように考えてみると、今後、日本に関するリーク情報に特化したWikileaks形式の告発サイトが誕生することは十分に考えられる。これから益々リークは増加する。従来的な方法によっても、ネット技術を使用した方法によっても。そうした中でこれからの企業は、リークを抑圧することよりも、リークが生じた場合の柔軟な対応を考えた方がいいだろう。技術の進歩は著しい。これに比例する形で、企業の姿勢にも著しい進歩を期待したい。
参考文献
・赤羽喜六著、軸丸靖子[取材・文]『告発は終わらない ミートホープ事件の真相』長崎出版、2010年
・諏訪園貞明、杉山浩一共著『内部告発 潰れる会社 活きる会社』辰巳出版、2008年
・櫻井稔著『内部告発と公益通報 会社のためか、社会のためか』中公新書、2006年
●塚越健司(つかごし・けんじ)
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍中。専門は政治社会学。
プロジェクト「.review」の中核メンバーとしても活動中。
共著に『フシギなくらい見えてくる!本当にわかる社会学』(日本実業出版社)がある。
配信日:2010/05/06
リーク、あるいは内部告発。この言葉は両義的だ。危険、汚いといったネガティブなイメージと同時に、勇敢な行為、社会正義といったイメージも浮かんでくる。
そもそも、リークに対してはどのような対応がなされているのだろうか。日本では近年、企業による相次ぐ不祥事を受けて、2006年に「公益通報者保護法」が施行された。この法律は、文字通り行政機関がリークした者を保護するためのものである。また内閣府のデータによれば、公益通報という形で行政機関に受理されたリークは2008年で5000件を越えている。そしてこのうちの4000件以上が、なんらかの行政措置を受けている。5000件が多いか少ないかの判断はここでは控えるが、日本におけるリークの量が、今後増加することは間違いないだろう。
リークに関しては、さらに興味深いものがある。近年のインターネット技術を応用した「Wikileaks」(ウィキリークス)というサイトが、画期的な方法でリーク情報を世界に伝えているのだ。Wikileaksでは、わざわざ行政機関に自らアクセスすることなく、ネット上のサイトに書き込むだけでリーク情報を世界に発信させることができる。そう、リークは形を変えつつあるのだ。
だが、まずは従来型のリークについて、ひとつの事例をみてみよう。2007年に生じた、北海道の食品加工卸会社「ミートホープ」による食肉表示偽装事件を覚えているだろうか?食肉にパンを混ぜてまで量を改ざんし、また社長のキャラクターやその対応の不備から、マスコミに大きくとりあげられたこの事件。事件が明るみになったきっかけは、リークによるものだった。
当時ミートホープ社の常務であった赤羽喜六氏は、偽装された食肉を農林水産省に持ち込むも、受け取りを拒否されている。その後ミートホープ社を退社した後も、赤羽はマスコミに情報を持ちこむが掲載を拒否され続ける。そして紆余曲折の末、朝日新聞の記者が拾い上げる形で、事件が明らかになった経緯がある。
事件は大きく報道され、リークそのものは大成功だったと言えるだろう。しかし、この事件では赤羽氏が実名でリークを公表したということもあり、赤羽氏自身は大変な精神的苦痛を被った。まず、自分のリークが元で結果的に会社は倒産。従業員の多くに赤羽氏は恨みを買った。当然、元取引先の人間からも「裏切り者、自分も不正に加担していたくせに」とのクレームが寄せられる。裏切り者というイメージは、近隣住民の白い目や、家族・親族からの苦情に拍車をかける。結局赤羽氏は、2010年2月現在に至るまでうつ病を患うこととなった。
赤羽氏が最初に保健所にリークしたのは2006年。「公益通報者保護法」が施行されてすぐのことである。現在のようにリークがある程度社会的認知を獲得しており、行政側の窓口の設置等がなされているならいざしらず、この段階の行政はリークに見向きもしなかったのである。このケースは数多く存在するリークのほんの一例ではあるが、リークにかかる個人のコストを考慮した時、行政やマスコミにリークするという行為に付きまとう困難は理解できる。
では、全世界からリーク情報を集約・発信する告発サイトたる「Wikileaks」とはいかなるものか。Wikileaksは2006年に、オーストラリアのジャーナリストであるジュリアン・アサンジ氏が中心となって立ち上げた英語のサイトであり、2007年から公式にリーク情報の募集を開始した。その規模は年々拡大傾向にあり、2010年4月現在で、リーク情報そのものは120万を超えている。リーク投稿者のプライバシーに関してWikileaksは、投稿者の情報に関してログを取らないといった、強固なセキュリティを持ったスウェーデン企業PRQ(PeRiQuito AB)のホスティングサービスを使用している。
実際にWikileaksが世界に発信した有名なリーク情報としては、スイスのジュリアス・ベアー銀行のマネーロンダリング情報や、宗教団体であるサイエントロジーの内部資料情報がある。最近では、イラクにおける米軍の民間人へのヘリ攻撃の映像の公開が新しい。このようにWikileaksでは、経済や宗教、政治等、主に社会問題に切り込んでいる。また大きく報じられることはなかったが、日本の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏出事故の映像が発信されたこともある。
では、Wikileaksの何が新しいのだろうか。まず、従来型のリークでは、どうしても行政やマスコミに対して、自らの身元を明かさなければならない。「公益通報者保護法」においても、リークした者の保護を図るとは記載されてあるものの、やはりプライバシー流出に対する不安は拭えない。また、場合によってはリーク者が行政機関に出向いて語らなければならないことも多々あり、リークが敷居の高いものとなってしまっている現状が伺える。
これに対してWikileaksは、HPの投稿欄に内容を記述するだけである。あとは1200人の登録されたボランティアスタッフがその内容を審査し、適正と判断されたものが公表される(なお2010年1月に行ったジュリアン・アサンジ氏へのインタビューで彼は、Wikileaksの運営メンバーは、中核になる5人と800人の協力者と答えている)。情報が公開されれば、Twitter(特にRT機能)によって情報が一気に世界をかけめぐることになり、マスコミも大きく取り上げることになるだろう。実際、最近のWikileaksでは、情報をTwitterでも発信している。
いずれにせよ、リーク者の負担は、Wikileaksの投稿フォームに従ってリーク内容を書くだけである。だがもちろん問題もある。そもそもリーク情報がデマである可能性もあるだろうし、スタッフの審査能力にも限界はある。この点は課題として残るだろう。
このように、Wikileaksに問題がないわけではない。リーク内容の審査過程に透明性が担保されていないとする批判も存在すれば、そもそも日本で多くなされている中小企業のリーク情報の審査など誰ができるのか、といった疑問も残る。従って著者は、Wikileaksが日本でも力を持ち得るかについては疑問もある。
しかし、Wikileaksが画期的なのは、むしろ新しい技術に裏打ちされたリーク形態が出現したという、この事実なのである。すでに存在しているネット技術を使用すれば、告発サイトがWikileaksに限定される必要はないのだ。
そのように考えてみると、今後、日本に関するリーク情報に特化したWikileaks形式の告発サイトが誕生することは十分に考えられる。これから益々リークは増加する。従来的な方法によっても、ネット技術を使用した方法によっても。そうした中でこれからの企業は、リークを抑圧することよりも、リークが生じた場合の柔軟な対応を考えた方がいいだろう。技術の進歩は著しい。これに比例する形で、企業の姿勢にも著しい進歩を期待したい。
参考文献
・赤羽喜六著、軸丸靖子[取材・文]『告発は終わらない ミートホープ事件の真相』長崎出版、2010年
・諏訪園貞明、杉山浩一共著『内部告発 潰れる会社 活きる会社』辰巳出版、2008年
・櫻井稔著『内部告発と公益通報 会社のためか、社会のためか』中公新書、2006年
●塚越健司(つかごし・けんじ)
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍中。専門は政治社会学。
プロジェクト「.review」の中核メンバーとしても活動中。
共著に『フシギなくらい見えてくる!本当にわかる社会学』(日本実業出版社)がある。
