担当者より:「食」についての本を論じるコラムニストのオバタカズユキさんによる連載の最終回を掲載いたします。取り上げる書籍は、『被差別の食卓』(新潮新書)です。味読してください。
配信日:2005/07/20
〈食〉にまつわる書籍を紹介してきたミニ連載も、とりあえず今回でおしまい。最後は、私に〈食〉の面白さを教えてくれただけでなく、もの書き業への誘惑までしてくれてしまった故・開高健の本を、と考えていた。が、本屋をうろついていたら、一冊の新刊が目に飛びこんで来たのでこっちにする。
この新書で書籍デビューした著者は、73年生まれのノンフィクションライターだ。オーパ、オーパと叫びながら世界中の旨いもん食い尽くして食道癌で逝っちまった過去の巨匠をとりあげるよりも、これからの新人の宣伝を手伝うべきだろう。
その名を『被差別の食卓』(新潮新書)と題した本書。内容もそのまま被差別民の“ソウルフード”のルポ集である。アメリカの黒人たちのフライドチキンやザリガニ料理、ブラジルの黒人奴隷食からメジャーになったフェジョアーダ、東欧~中東のロマ(ジプシー)たちが珍重しているハリネズミ料理、カーストの国ネパールの不可触民たちが食べていた牛肉料理と、ワールドワイドに食べ歩く。ネタはえぐいが、筆致はさらっとしており、なかなかタフなライターだなと思わされる。
だが、圧倒的に面白かったのは、日本の“ソウルフード”をとりあげた最終章だ。著者が幼い頃に食べていた干肉の「さいぼし」や、ホルモン揚げの「あぶらかす」の味を求めて、近畿圏の食堂や工場を訪ね歩く。被差別部落の出身者でなければ困難であろう取材を実現させている。
新書ていどの文字量なら、この最終章の題材だけをもっと細かく掘り下げて一冊にできたはず。ちょっともったいないな、とすら思わされた。食には人間が表れる。特定の人間しか食べない料理があったなら、それは特定の人間集団の歴史を表わしている。遠い外国の話だと、『世界ウルルン滞在記』などの動画の力に負けてしまうが、日本国内の話だったら、今のところはこうした活字の形でしか紹介できまい。
本書によると、最近の南大阪のロードサイドでは、「あぶらかす」をトッピングした「かすうどん」を売りにする店が増えているそうだ。そんなこと東京人の私には初耳だし、閉じた<食>だったはずの“ソウルフード”がなんで一般向けに流行ってるの? と、そこらの追跡も細かくしてもらいたかったところである。
〈食〉ネタは読者や視聴者の食いつきがいいので、あれもこれも食い荒らされた感があるが、〈差別〉と組み合わせた本書のように、切り口次第でまだまだイケルのだろう。「ニートの食卓」とか、「コンビニ弁当はなぜ同じ味がするのか」とか、私も取材してみたくなった。
●オバタカズユキ(おばた・かずゆき)
物書き。
著書に『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『ペットまみれの人生』(扶桑社文庫)などがある。
配信日:2005/07/20
〈食〉にまつわる書籍を紹介してきたミニ連載も、とりあえず今回でおしまい。最後は、私に〈食〉の面白さを教えてくれただけでなく、もの書き業への誘惑までしてくれてしまった故・開高健の本を、と考えていた。が、本屋をうろついていたら、一冊の新刊が目に飛びこんで来たのでこっちにする。
この新書で書籍デビューした著者は、73年生まれのノンフィクションライターだ。オーパ、オーパと叫びながら世界中の旨いもん食い尽くして食道癌で逝っちまった過去の巨匠をとりあげるよりも、これからの新人の宣伝を手伝うべきだろう。
その名を『被差別の食卓』(新潮新書)と題した本書。内容もそのまま被差別民の“ソウルフード”のルポ集である。アメリカの黒人たちのフライドチキンやザリガニ料理、ブラジルの黒人奴隷食からメジャーになったフェジョアーダ、東欧~中東のロマ(ジプシー)たちが珍重しているハリネズミ料理、カーストの国ネパールの不可触民たちが食べていた牛肉料理と、ワールドワイドに食べ歩く。ネタはえぐいが、筆致はさらっとしており、なかなかタフなライターだなと思わされる。
だが、圧倒的に面白かったのは、日本の“ソウルフード”をとりあげた最終章だ。著者が幼い頃に食べていた干肉の「さいぼし」や、ホルモン揚げの「あぶらかす」の味を求めて、近畿圏の食堂や工場を訪ね歩く。被差別部落の出身者でなければ困難であろう取材を実現させている。
新書ていどの文字量なら、この最終章の題材だけをもっと細かく掘り下げて一冊にできたはず。ちょっともったいないな、とすら思わされた。食には人間が表れる。特定の人間しか食べない料理があったなら、それは特定の人間集団の歴史を表わしている。遠い外国の話だと、『世界ウルルン滞在記』などの動画の力に負けてしまうが、日本国内の話だったら、今のところはこうした活字の形でしか紹介できまい。
本書によると、最近の南大阪のロードサイドでは、「あぶらかす」をトッピングした「かすうどん」を売りにする店が増えているそうだ。そんなこと東京人の私には初耳だし、閉じた<食>だったはずの“ソウルフード”がなんで一般向けに流行ってるの? と、そこらの追跡も細かくしてもらいたかったところである。
〈食〉ネタは読者や視聴者の食いつきがいいので、あれもこれも食い荒らされた感があるが、〈差別〉と組み合わせた本書のように、切り口次第でまだまだイケルのだろう。「ニートの食卓」とか、「コンビニ弁当はなぜ同じ味がするのか」とか、私も取材してみたくなった。
●オバタカズユキ(おばた・かずゆき)
物書き。
著書に『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『ペットまみれの人生』(扶桑社文庫)などがある。
