担当者より:お笑い評論家・ラリー遠田さんに社会派芸人としての田村淳を論じていただいた原稿です。著書『THE 芸人学』(東京書籍)が発売されたばかりですので、そちらも併せてぜひお読みください。
配信日:2009/01/14
テレビに出ているお笑い芸人の中で、「社会派」と呼ばれる人たちがいる。いちばん典型的なのは、「政治家になりそうな芸人」「総理大臣になってほしい有名人」といったアンケート調査で上位に名前が挙がる、ビートたけし、島田紳助、爆笑問題の太田光といった人たちのことだ。
現役政治家や評論家が出てくるようなトーク番組でホスト役を務め、社会問題について語ったり政治を論じたりする。彼らは芸人が「社会的弱者」であった時代のイメージを逆手に取って、「芸人のくせに社会を語れるのがすごい」「芸人にしてはなかなか鋭いことを言う」といった形で一定の評価を得ることに成功した。彼らがいわゆる「社会派芸人」のトップ集団である。
その後に続くのは、加藤浩次、くりぃむしちゅーの上田晋也といった面々。情報番組でキャスターを務めたり、知的な路線のバラエティ番組での司会業をこなしながら、虎視眈々と「社会派芸人」としての地位の確立を狙っている。
あまり知られていないところでは、しずちゃんの相方としておなじみの南海キャンディーズの山里亮太も、CSの番組『山ちゃんのジャーナルしちゃうぞ!』(朝日ニュースター)で司会を務め、『週刊朝日』編集長の山口一臣らをレギュラー陣に据えて、社会派芸人としての腕を磨いている。彼らはトップ集団の後釜を狙う「社会派芸人」の後続集団といったところだろうか。
ただ、どちらにも共通しているのは、彼らの本業はあくまで「芸人」である、ということだ。彼らは単に、芸人としてテレビで生き残っていくためのポジション争いをしているだけで、決して本人が政界に名乗りを上げたいと思っているわけではない。もちろん、週刊誌等で面白半分でそういう噂が出ることはあるが、芸人としての社会派志向と、本人が政治家になろうとすることとの間には大きな溝があるというのは押さえておかなくてはいけない。
そんな中で、宮崎県知事の東国原英夫氏に続けといわんばかりに、堂々と「政界進出」の野望を公言してはばからない若手芸人が1人だけいる。それが、ロンドンブーツ1号2号(ロンブー)の田村淳だ。
田村淳は、08年11月に『ロンドンブーツ1号2号の田村淳NewsCLUB』(文化放送)というラジオ番組を開始した。政治を知らない若者への橋渡し的な役目を果たすというコンセプトで、すでに田原総一朗、舛添要一厚生労働大臣といった顔ぶれをゲストに招き、社会問題について熱いトークを繰り広げている。
淳が他の「社会派芸人」と一線を画しているのは、政界進出の野心を一切包み隠さず告白していることだ。番組開始時のインタビューでは「10年後までに芸能界を引退して出馬したい」と具体的なプランまで提示している。
近年のお笑い史を振り返ってみても、ロンブーほどすさまじい勢いで出世を果たした芸人はそれまでにまずいなかった。しかも、単にデビューしてすぐに冠番組を獲得したというだけではなく、そこに至るまでの軌跡にこそ意味がある。
彼らは吉本興業所属ではあるが、「ダウンタウン一派」などのどこか特定の派閥に属していたわけでもなく、「ボキャブラブーム」のような時代の波に乗ったわけでもない。淳はただ、持ち前の同世代ウケする話術のセンスと、敵を作らず誰とでも仲良くする政治力だけを駆使して、現在の地位を確立したのである。そんな彼には、本職の政治家に求められる権謀術数の素質は十分にあると見ていい。
また、田村淳は、写真を見ただけで城の名前を当てられるほどの城郭マニアであり、幕末を中心とした歴史にも詳しく、刀剣の収集家でもある。この手の趣味を持っているというのも、いかにも本物の政治家っぽい。
他の社会派芸人がバラエティ番組における役割としての「社会派」を志向しているのに対して、淳は初めから本物志向で、いわば「まつりごと」としての政治にこそ関心があり、天下取りを本気で視野に入れている。テレビの中の役職としての「社会派芸人」にとどまらない勢いを感じるという点で、田村淳という男の行く末は気になるところだ。
●ラリー遠田(らりー・とおだ)
おわライター、お笑い評論家。
雑誌やブログを通じてお笑いに関する分析、評論活動を行っている。
著書に『この芸人を見よ!』(サイゾー)や『THE 芸人学』(東京書籍)がある。
ブログ:おわライター疾走
配信日:2009/01/14
テレビに出ているお笑い芸人の中で、「社会派」と呼ばれる人たちがいる。いちばん典型的なのは、「政治家になりそうな芸人」「総理大臣になってほしい有名人」といったアンケート調査で上位に名前が挙がる、ビートたけし、島田紳助、爆笑問題の太田光といった人たちのことだ。
現役政治家や評論家が出てくるようなトーク番組でホスト役を務め、社会問題について語ったり政治を論じたりする。彼らは芸人が「社会的弱者」であった時代のイメージを逆手に取って、「芸人のくせに社会を語れるのがすごい」「芸人にしてはなかなか鋭いことを言う」といった形で一定の評価を得ることに成功した。彼らがいわゆる「社会派芸人」のトップ集団である。
その後に続くのは、加藤浩次、くりぃむしちゅーの上田晋也といった面々。情報番組でキャスターを務めたり、知的な路線のバラエティ番組での司会業をこなしながら、虎視眈々と「社会派芸人」としての地位の確立を狙っている。
あまり知られていないところでは、しずちゃんの相方としておなじみの南海キャンディーズの山里亮太も、CSの番組『山ちゃんのジャーナルしちゃうぞ!』(朝日ニュースター)で司会を務め、『週刊朝日』編集長の山口一臣らをレギュラー陣に据えて、社会派芸人としての腕を磨いている。彼らはトップ集団の後釜を狙う「社会派芸人」の後続集団といったところだろうか。
ただ、どちらにも共通しているのは、彼らの本業はあくまで「芸人」である、ということだ。彼らは単に、芸人としてテレビで生き残っていくためのポジション争いをしているだけで、決して本人が政界に名乗りを上げたいと思っているわけではない。もちろん、週刊誌等で面白半分でそういう噂が出ることはあるが、芸人としての社会派志向と、本人が政治家になろうとすることとの間には大きな溝があるというのは押さえておかなくてはいけない。
そんな中で、宮崎県知事の東国原英夫氏に続けといわんばかりに、堂々と「政界進出」の野望を公言してはばからない若手芸人が1人だけいる。それが、ロンドンブーツ1号2号(ロンブー)の田村淳だ。
田村淳は、08年11月に『ロンドンブーツ1号2号の田村淳NewsCLUB』(文化放送)というラジオ番組を開始した。政治を知らない若者への橋渡し的な役目を果たすというコンセプトで、すでに田原総一朗、舛添要一厚生労働大臣といった顔ぶれをゲストに招き、社会問題について熱いトークを繰り広げている。
淳が他の「社会派芸人」と一線を画しているのは、政界進出の野心を一切包み隠さず告白していることだ。番組開始時のインタビューでは「10年後までに芸能界を引退して出馬したい」と具体的なプランまで提示している。
近年のお笑い史を振り返ってみても、ロンブーほどすさまじい勢いで出世を果たした芸人はそれまでにまずいなかった。しかも、単にデビューしてすぐに冠番組を獲得したというだけではなく、そこに至るまでの軌跡にこそ意味がある。
彼らは吉本興業所属ではあるが、「ダウンタウン一派」などのどこか特定の派閥に属していたわけでもなく、「ボキャブラブーム」のような時代の波に乗ったわけでもない。淳はただ、持ち前の同世代ウケする話術のセンスと、敵を作らず誰とでも仲良くする政治力だけを駆使して、現在の地位を確立したのである。そんな彼には、本職の政治家に求められる権謀術数の素質は十分にあると見ていい。
また、田村淳は、写真を見ただけで城の名前を当てられるほどの城郭マニアであり、幕末を中心とした歴史にも詳しく、刀剣の収集家でもある。この手の趣味を持っているというのも、いかにも本物の政治家っぽい。
他の社会派芸人がバラエティ番組における役割としての「社会派」を志向しているのに対して、淳は初めから本物志向で、いわば「まつりごと」としての政治にこそ関心があり、天下取りを本気で視野に入れている。テレビの中の役職としての「社会派芸人」にとどまらない勢いを感じるという点で、田村淳という男の行く末は気になるところだ。
●ラリー遠田(らりー・とおだ)
おわライター、お笑い評論家。
雑誌やブログを通じてお笑いに関する分析、評論活動を行っている。
著書に『この芸人を見よ!』(サイゾー)や『THE 芸人学』(東京書籍)がある。
ブログ:おわライター疾走
