担当者より:オバタカズユキさんに「食」にまつわる書籍を論じていただいただいた連載の第2回目です。なお、著者のHP内の情報についても少し触れられておりますが、2005年時点のものであることをご了承ください。

配信日:2005/03/16


家庭料理人シリーズ第2弾。前回の辰巳芳子は、その道に全霊をかけた修道女のごとき重厚な料理人だった。今回の奥薗壽子はそれとは対極的に軽い、自称「ナマクラ流ズボラ派家庭料理研究家」。

HPの略歴にあるように、ブレイクのきっかけもテレビ東京の「TVチャンピオン 3分間料理人選手権」で優勝したことだ。本の文体もあのB級番組出身っぽく、お喋り調で気負いなし。そして何よりレシピが単純明快。

奥薗ワールドの入門書としては、『ズボラ人間の料理術 定番レシピ』(サンマーク出版)がいいだろう。とりあえず、表紙を飾っているホワイトシチューを、レシピ通りに作っちゃおう!

ホワイトシチューの要といえば、そう、あの七面倒くさいホワイトソース作り。小麦粉をバターで丹念に炒め、温めた牛乳でじっくり溶かし……。でもね、そのソース作りの過程自体が奥薗レシピにはない。鶏皮と玉ねぎを炒めた鍋の中に小麦粉を振りいれ、冷たいままの牛乳ドボドボ&具材ドサッ。それでほぼ完了、なのである。えっ、それで粉がダマにならないの? クリーミー命のホワイトシチューが、べしゃべしゃの牛乳煮になっちゃわないの? ルーもスープの素もなしでコクが出るの?

少しでも台所に立つ者ならば、一読するなり眉唾レシピだ。でも、「料理に必要なのは、勇気と潔さ」という一言に背中を押されて作ってみると、これが呆れるくらい簡単に、かつ憎たらしいほど美味に、たしかな一品ができてしまうのだ。ホワイトシチューに関しては、おそらくこういうことだろう。

水分と油分を適度に含んだ炒め玉ねぎ片のコロモとなることで、小麦粉はダマになるタイミングをなくす。コロモは加えた牛乳の中で徐々に溶解し、自動的に全体をクリーミー化していく。コクは滋味の塊である鶏皮から勝手に抽出される。すこぶる科学的かも。奥薗本を片手に、私もずいぶん台所に立ってみたが、実作してみると試行錯誤のうえに導かれた合理性が実感できる。「頭のいい女だなあ」と毎度、頭が下がる。 

奥薗壽子は1962年生まれ。男女雇用機会均等法の第一世代。このあたり生まれの優秀な女性の共通項は「バタバタ生きていること」だったりするのだが、彼女も役者業から精神科医の助手業まであれこれ手を出し、茶道や華道などの趣味の世界にも足を踏み入れ、一男一女も育てあげるという半生を送ってきた。そういうバタバタ生活の中でこそ、編み出された料理術だ。働く女が生み出した現代家政学の第一線だともいえよう。同世代の男子として、激賞しておきたい。


●オバタカズユキ(おばた・かずゆき)
物書き。
著書に『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『ペットまみれの人生』(扶桑社文庫)などがある。