担当者より:ライターの多根清史さんは、三国志からガンダムまでオールラウンドでご活躍中のライターです。ゲームについては特に精通している書き手でして、『プレステ3はなぜ失敗したのか?』(晋遊舎ブラック新書)や『日本を変えた10大ゲーム機』(ソフトバンク新書)といった著書もあります。この原稿は2008年初頭の段階で苦境も伝えられていたゲームセンター業界に関して論じていただいたものです。なお、文中に出てくる政治家のセリフは、2006年の民主党代表選挙に際して小沢一郎が映画『山猫』より引用して発言したものです。
配信日:2008/01/16
ふだん街中を歩いていると、どんな地方であれ1~2軒はごくフツーに見かけるもの。そんな風に「ゲームセンター(以下ゲーセン)のある風景」が当たり前、と思っちゃいないだろうか?
お隣の韓国では、国策としてのブロードバンドの普及に便乗するかたちで、オンラインゲームが遊び放題のネットカフェ「PC房(パン)」があちこちに広まった。だが、その大人気ぶりはゲーセンの不人気とコインの裏表でもある。家庭用ゲーム機でも、低予算映画がふびんになるほど豪華なCGを思いのままに操り、また引きこもりながら本物の人間プレイヤーと共にバーチャル世界を冒険できる今となっては、ネットにもつながらない不便な店に行く必要がどこにある? そんなわけで、ゲーセンは絶滅危惧種の天然記念物、というのが世界の趨勢だ。
「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」
少し前に世間を騒がせた政治家が持ち出したセリフだが、日本のゲーセンにもピッタリ当てはまる。なぜこの国は、ゲーセンが生き残り続けている“不思議の国”なんだろうか? その答は「ちゃんと変わる努力をしてきたから」だ。
しかし、通りかかって横目でチラッと見たぐらいでは、変化はとても分かりにくい。女の子向けのプリクラを増やしたから? その地点は、もう10年は前に通過した場所だ。
百聞は一見にしかず。すべての謎は、大きめなゲーセンの中を小一時間ぶらぶらすれば解ける。最初に入り口近くで目にするのは、『甲虫王者ムシキング』や『おしゃれ魔女 ラブ&ベリー』など小さめの筐体だ。
これらは店により機種は違ったとしても、たいていは幼稚園~小学校低学年向け。夏休みには「ムシキング」をやりにきた親子連れがいたり、「ラブ&ベリー」もママ達がレアカードを競い合っていたりと、発売から数年しても人気は衰えを見せない。単なる子供用というより「家族ぐるみ」に成功しているのだ。
そして、2~3階建ての店舗であれば、1階はメダルゲームやスロットがお出迎えするのが定番。こんなの前からあったよ、と思うなかれ。最近の『ケロロ軍曹』から懐かしの『銀河鉄道999』まで、有名アニメの版権ものがあるわあるわ。特に映画化もひかえる『ヤッターマン』なんかはドクロストーンを集め、「ポチッとな」とボタンを押せたり、ブタもおだてりゃ木に登るしで、原作に愛のある演出づくし。ゲームに詳しくない親子がショッピングの合間にふらりときても、ちょっとしたアトラクション感覚で楽しめる。
そうしたお店の変化は「お客の年齢層を上と下に広げる」ことに向けられている。これはゲーセンを一種の学校、と考えると分かりやすい。かつてのお客は中学生~高校生になるとゲーセンに「入学」し、対戦格闘ゲームなどに「入部」して、やがて「卒業」する。
従来のアーケード(業務用)ゲームはルールもややこしく、反射神経も要求されるから、「入学」前の幼児にはムリ。そして「入学」後も、多くのお客はトシを取ると、時間もなくなっていくし、才能の限界にもぶち当たって「卒業」していってしまう。ハタチ過ぎても現役を続けられるゲーマーなんて、高校野球からプロ野球選手へと華麗に転身するような、ごく一部の層だけだ。
そんな“選ばれしもの”だけをアテにした先細りのビジネスモデルが、いつまでも長続きするはずがない。そこで、アーケード業界は「入学前」と「卒業後」に着目した。プロ野球や社会人野球があれば、リトルリーグや町内の草野球チームがあったっていい。ゲーセンは工夫を凝らしたグラウンドを提供して、その対価を受け取っているわけだ。
では、今までのコアなゲーマー層はどこに行ったのか? その答は、2階に上がればいやでも分かる。かたや右を向けば、『バーチャファイター5』や『鉄拳6』、それにガンダムのVSシリーズといった対戦ゲームや、『ビートマニア』シリーズなどの音楽ゲーム。そして左を見れば、『三国志大戦』をはじめとしたサテライト(複数プレイヤーで遊べる大型筐体)が配されている。彼らは昔から、そして今もそこで戦い続けている。
さっきも触れたように、“選ばれしもの”の絶対数は少ない。が、彼らがゲーセンに貢ぐお金は巨額にのぼり、『バーチャ2』が全盛期のときは「店でプレイするより安いから」と100万円以上の筐体ごと買ったツワモノもいたほど。そんな特上の上客を、アーケード業界が手放すなんてあり得ない。
コアなゲーマーをつなぎ止める秘策とは「カード」だった。現在の主流は、『三国志大戦』や『ガンダム カードビルダー』のトレーディングカード形式。いきなりコインを入れてゲームを始めることはできず、初めに500円程度の「スターターパック」を買わないといけない。中には「三国志」の有名な武将や『機動戦士ガンダム』のモビルスーツをカード化したものが数枚入っている。それらをプレイ台の上に配置し、大将や艦長さながらに動かして采配を振るう。1プレイが終わるごとにカードがもらえるが、一枚ごとにレアリティ(出にくさ)があるため、良いカードを入手するには何度もくり返し通う必要がある。かくしてマニアは「リピーター」になり、より搾り取られ……もとい、お店と強い絆で結ばれるしくみだ。
このトレカ方式は「ムシキング」などキッズゲームの多くにも採用され、幼稚園の頃からリピーターの“英才教育”もバッチリ。また、ゲーセン同士は光ケーブルでつながれ、地味な印象のあったクイズゲームも「オンライン化」がめざましい。全国のプレイヤーとテレビ番組さながらに競い合えるし、定期的に新しい問題が配信されて、いつでもクイズは取れたてピチピチ。いまやデキるサラリーマンは、オンラインとトレカを学びにゲーセンに行く時代かも! ただし、まだ御社はゲーセンほど“変わって”いないかもしれないので、勤務中ではなくアフターファイブにどうぞ。
●多根清史(たね・きよし)
ライター。
著書に『プレステ3はなぜ失敗したのか?』(晋遊舎ブラック新書)、『日本を変えた10大ゲーム機』(ソフトバンク新書)など多数。
ブログ:SIZUMA DRIVE@ハテナ
配信日:2008/01/16
ふだん街中を歩いていると、どんな地方であれ1~2軒はごくフツーに見かけるもの。そんな風に「ゲームセンター(以下ゲーセン)のある風景」が当たり前、と思っちゃいないだろうか?
お隣の韓国では、国策としてのブロードバンドの普及に便乗するかたちで、オンラインゲームが遊び放題のネットカフェ「PC房(パン)」があちこちに広まった。だが、その大人気ぶりはゲーセンの不人気とコインの裏表でもある。家庭用ゲーム機でも、低予算映画がふびんになるほど豪華なCGを思いのままに操り、また引きこもりながら本物の人間プレイヤーと共にバーチャル世界を冒険できる今となっては、ネットにもつながらない不便な店に行く必要がどこにある? そんなわけで、ゲーセンは絶滅危惧種の天然記念物、というのが世界の趨勢だ。
「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」
少し前に世間を騒がせた政治家が持ち出したセリフだが、日本のゲーセンにもピッタリ当てはまる。なぜこの国は、ゲーセンが生き残り続けている“不思議の国”なんだろうか? その答は「ちゃんと変わる努力をしてきたから」だ。
しかし、通りかかって横目でチラッと見たぐらいでは、変化はとても分かりにくい。女の子向けのプリクラを増やしたから? その地点は、もう10年は前に通過した場所だ。
百聞は一見にしかず。すべての謎は、大きめなゲーセンの中を小一時間ぶらぶらすれば解ける。最初に入り口近くで目にするのは、『甲虫王者ムシキング』や『おしゃれ魔女 ラブ&ベリー』など小さめの筐体だ。
これらは店により機種は違ったとしても、たいていは幼稚園~小学校低学年向け。夏休みには「ムシキング」をやりにきた親子連れがいたり、「ラブ&ベリー」もママ達がレアカードを競い合っていたりと、発売から数年しても人気は衰えを見せない。単なる子供用というより「家族ぐるみ」に成功しているのだ。
そして、2~3階建ての店舗であれば、1階はメダルゲームやスロットがお出迎えするのが定番。こんなの前からあったよ、と思うなかれ。最近の『ケロロ軍曹』から懐かしの『銀河鉄道999』まで、有名アニメの版権ものがあるわあるわ。特に映画化もひかえる『ヤッターマン』なんかはドクロストーンを集め、「ポチッとな」とボタンを押せたり、ブタもおだてりゃ木に登るしで、原作に愛のある演出づくし。ゲームに詳しくない親子がショッピングの合間にふらりときても、ちょっとしたアトラクション感覚で楽しめる。
そうしたお店の変化は「お客の年齢層を上と下に広げる」ことに向けられている。これはゲーセンを一種の学校、と考えると分かりやすい。かつてのお客は中学生~高校生になるとゲーセンに「入学」し、対戦格闘ゲームなどに「入部」して、やがて「卒業」する。
従来のアーケード(業務用)ゲームはルールもややこしく、反射神経も要求されるから、「入学」前の幼児にはムリ。そして「入学」後も、多くのお客はトシを取ると、時間もなくなっていくし、才能の限界にもぶち当たって「卒業」していってしまう。ハタチ過ぎても現役を続けられるゲーマーなんて、高校野球からプロ野球選手へと華麗に転身するような、ごく一部の層だけだ。
そんな“選ばれしもの”だけをアテにした先細りのビジネスモデルが、いつまでも長続きするはずがない。そこで、アーケード業界は「入学前」と「卒業後」に着目した。プロ野球や社会人野球があれば、リトルリーグや町内の草野球チームがあったっていい。ゲーセンは工夫を凝らしたグラウンドを提供して、その対価を受け取っているわけだ。
では、今までのコアなゲーマー層はどこに行ったのか? その答は、2階に上がればいやでも分かる。かたや右を向けば、『バーチャファイター5』や『鉄拳6』、それにガンダムのVSシリーズといった対戦ゲームや、『ビートマニア』シリーズなどの音楽ゲーム。そして左を見れば、『三国志大戦』をはじめとしたサテライト(複数プレイヤーで遊べる大型筐体)が配されている。彼らは昔から、そして今もそこで戦い続けている。
さっきも触れたように、“選ばれしもの”の絶対数は少ない。が、彼らがゲーセンに貢ぐお金は巨額にのぼり、『バーチャ2』が全盛期のときは「店でプレイするより安いから」と100万円以上の筐体ごと買ったツワモノもいたほど。そんな特上の上客を、アーケード業界が手放すなんてあり得ない。
コアなゲーマーをつなぎ止める秘策とは「カード」だった。現在の主流は、『三国志大戦』や『ガンダム カードビルダー』のトレーディングカード形式。いきなりコインを入れてゲームを始めることはできず、初めに500円程度の「スターターパック」を買わないといけない。中には「三国志」の有名な武将や『機動戦士ガンダム』のモビルスーツをカード化したものが数枚入っている。それらをプレイ台の上に配置し、大将や艦長さながらに動かして采配を振るう。1プレイが終わるごとにカードがもらえるが、一枚ごとにレアリティ(出にくさ)があるため、良いカードを入手するには何度もくり返し通う必要がある。かくしてマニアは「リピーター」になり、より搾り取られ……もとい、お店と強い絆で結ばれるしくみだ。
このトレカ方式は「ムシキング」などキッズゲームの多くにも採用され、幼稚園の頃からリピーターの“英才教育”もバッチリ。また、ゲーセン同士は光ケーブルでつながれ、地味な印象のあったクイズゲームも「オンライン化」がめざましい。全国のプレイヤーとテレビ番組さながらに競い合えるし、定期的に新しい問題が配信されて、いつでもクイズは取れたてピチピチ。いまやデキるサラリーマンは、オンラインとトレカを学びにゲーセンに行く時代かも! ただし、まだ御社はゲーセンほど“変わって”いないかもしれないので、勤務中ではなくアフターファイブにどうぞ。
●多根清史(たね・きよし)
ライター。
著書に『プレステ3はなぜ失敗したのか?』(晋遊舎ブラック新書)、『日本を変えた10大ゲーム機』(ソフトバンク新書)など多数。
ブログ:SIZUMA DRIVE@ハテナ
